「なぁ、俺たちのどちらかが生き残ったら……、」
1914年。彼は、親友とこんな約束を交わした。
「生き残った方が、必ず故郷に知らせよう。『彼は死んだ』って。行方不明の男のことを想い続けるより、愛する人にはすこしでも早く前を向いてもらいたいだろう」
そんな約束の後、彼は敵軍の攻撃に倒れた。彼の頭に開いた穴から、流れ出す赤黒くどろりとした血。親友は決意した。必ず生き残り、彼の死を知らせようと。
それから4年。彼の親友は約束通りに生き残り、フランス軍司令部に彼の死を報告した。戦死を知らせる一葉の手紙が、彼を待つ恋人へも送られた。
それと同時のことだった。彼が生きていることを知らせる、彼自身の書いた手紙が出されたのは。死んだと思われた彼は、まだ生きることを諦めていなかった。頭に穴が開いたまま捕虜となり、4年間の戦争を収容所で生き抜いたあと、ついに終戦を迎えていたのだ。
その頃の郵便配達夫は、来る日も来る日も戦死を知らせる手紙ばかりを運ばされることに苦しんでいた。届けたくない戦死の知らせをカバンの奥底に押し込み、配達夫が先に届けたのは、彼が生きているという彼自身からの手紙だった。続いて、彼が死んだというフランス軍からの手紙。矛盾する二通を前に、彼の恋人が信じたのは、もちろん彼自身からの手紙のほうだった。
彼は恋人と再会し、すぐに子どもを授かった——彼によく似た青い目の、元気によく泣く男の子。第一次世界大戦の終わりに宿ったその子は、「ルネ」と名付けられた。“もういちど生まれる”というフランス語に、よく似た響きのルネという名前。
「これが、俺の父親の話さ」
ルネおじいちゃんは……今となってはおじいちゃんになったその男の子は、そう言ってどこか遠いところを見ている。そしてそんな横顔を、ルネおばあちゃんが見上げている。同じ名前で共に生き、それぞれおじいちゃん・おばあちゃんと呼ばれるようになったふたり。そうして寄り添うふたりには、ルネという名前はよく似合う。
「そこからたった20年くらいだよ。今度は俺が、軍部に戦死を知らせる役になるとはね!」