男っぽい私でも、誕生日はエスコートされたい
川崎貴子(以下、川崎) 前半のテーマは、「なぜ男と女は愛ですれ違うのか」です。というのも、恋愛が長くなって安定期に入ったり、結婚してしばらくたったりすると、恋は愛に変わりますよね。そのときに、愛に変わった男性側というのが、女性から見るとサボっているようにしか見えないんです。
二村ヒトシ(以下、二村) 何をサボってるんですか?
川崎 例えば、食事に行くときはレストランを予約してくれるとか、「好きだ」「綺麗だよ」と言うとか、そういう行為がなくなってゆくんですよ。そして、「おれがここにいること自体が愛してるってことだ」とか、「仕事からちゃんと家に戻ってくるのが愛なんだ」とか、サボってるようにしか聞こえないことを言う。「もうロマンティックはいいよね?」と言わんばかりに。そのあたり、二村さんはどう思います?
二村 えーと、どう思いますかと言われましても(笑)、おっしゃるとおり、愛情表現をサボってるんだと思います。生物学的に男はこうだから、というのではなく、社会的に「仕事」の世界で役割を果たすことに力を入れた結果、サボってきたものが多すぎるんでしょうね。ただ、その状況が変わろうとしているということが、AV監督という性を映像にする仕事をしているとひしひしと感じます。男女のセックスでの役割が逆転したようなAVを撮っていると、男らしさ、女らしさというものは、生まれながらにあるものではなく、社会によって決められてきたものなんだ、と思うんです。
川崎 変わってきているんですか。それでもやっぱりまだ、男と女の愛はすれ違っていますよね。
二村 まあ、すべての男は気持ち悪くて、すべての女の人はウザいので……(笑)。
川崎 皆さん、これ、大事なポイントですからね(笑)。男の人はなぜ気持ちが悪いんでしょう?
二村 自分が気持ち悪いことが、バレてないと思ってるからですね。どんなに社会的に成功されてる方でも、無自覚です。でも女の人は男と違って、自分がウザくてめんどうくさいということを知っているんです。
川崎 そして、そのことがさらにめんどうくさい(笑)。
二村 その通りです(笑)。
川崎 その気持ち悪い男の人たちが、なぜか恋が愛に移行すると、愛情表現をしなくていいと思ってしまう。そこで、女性たちは、「えっ、愛って損じゃない?」「恋愛期間の方がよかった!」と思ってしまうわけです。でも、結婚したり子どもを産んだりするためには、愛を目指すことが必要になるため、そこにジレンマが生じるんですよね。女性は、恋で愛情表現をされればされるほど、承認欲求が満たされるんですよ。だから余計、恋のほうがよく見える。
二村 それはぼくの本業でもいつも思うことです。AV女優さんに承認を与えることが、AV監督の仕事の大きな部分を占めるんですよ。
川崎 うちの家庭は私が大黒柱で、家事と育児を夫に丸投げしていた期間が何年もありました。外食も旅行も決めるのは全て私。夫がそういう業務が驚くほど苦手で(笑)。それでも、誕生日くらいは、レストランを予約してエスコートしてねって、毎年言っていたんです。で、言い続けた結果、結婚7年目にして、去年初めて誕生日のレストランの予約をしてくれたんですよ!
二村 まさに『愛は技術』ですね。
川崎 それ、すごくうれしかったんですよね。別に、そんなの自分で予約したほうが早いんですけど、それが結婚生活を長続きさせる秘訣でもあるし、自分がまだ女として認識されているという確認にもなる。私は、自分自身の中にそういう気持ちがあったことにびっくりしました。
二村 男女が逆転しているようで、女として承認されたい気持ちがあったんだ、と。
川崎 世間で言うところの「男役」が得意な私ですら承認欲求があるんだから、普通に付き合っている、または結婚している女性は、もっと男性からの愛情表現を必要としているんじゃないかなと思うんです。私としては、「愛してる」と言うのはタダなんだから、いくらでも言えばいいのにと思うんですけど。二村さんはちゃんと言いますよね。
男と女の“バイリンガル”になろう
二村 川崎さんが女の姿をされている経営者の男であるように、ぼくも男の姿をしてアダルトビデオの監督をやっている女でもあるんですよ(笑)。
川崎 いつも対談の記事を読むと、二村さんの発言の女子力が高すぎて、私の発言と男女が逆転しているんですよね。それくらい、二村さんは女性の気持ちがよくわかっている。
二村 わかっているというか……まあここにいらっしゃっている男性の多くがうなずいてくださると思うんですが、ぼくは女の人が好きなんですよ。そういう意味ではすごく男性的です。それは川崎さんも同じで、川崎さんだってすごく女性的な部分がある。性別は女性で、男の心ももっている。だからこそ、女性をサポートする会社を経営されてきたし、今回書かれた『愛の技術』も女性にすごく響いたんだと思います。そしてぼくは、女の心を持った男だから、AV女優さんに男の欲望を演じてもらうようお願いすることができる。ぼくが川崎さんをお慕いしているのは、このあたりにシンパシーをすごく感じているからなんです。
川崎 女性と男性のハーフみたいなものですかね。
二村 そう。あるいはバイリンガル。
川崎 女性語も男性語も話せる。
二村 これから生きていく人は、男女のバイリンガルのほうが生きていきやすいと思う。それは、エロビデオを20年以上撮り続けてきたぼくの実感です。では愛の技術とはなにかというと、それが川崎さんの本に書いてあるわけです。これは、多くの女性向けのモテ本と違って、女らしくしろとか、男に媚びろとか言っていない。
川崎 Amazonでいつも、「男を立てろ」みたいな本が上位にいて、それには勝ちたいなと思ってるんですよね(笑)。男は上手に転がしときゃいいみたいなね。女にも男にも失礼だと思うんですよ。
二村 ああー、あるある、そういう本。そういう本は燃やしちゃったほうがいい。
(会場・笑)
二村 川崎さんの『愛は技術』って、ぼく本当にいい本だと思うんです。たまたま女という性に生まれて、仕事も結婚も、出産もしたいと思っている人が、どうやって誇りのようなものを失わずに、わからず屋の男を愛していくか。そういうことについての、具体例や方法が丁寧に、優しく書かれている。こんな本を、女性だけに読ませておいたら、男は差をつけられるばかりですよ。本の帯のコメントに「見習いましょう(男も)。」と書かせてもらったのは、そういう意味なんです。
川崎 帯に「愛を乞うより、愛してしまえ。」と殴り書いたようなメッセージがあるのですが(笑)、女性が幸せになりたかったら、まさにそうするべきだと思うんですよね。でも、最初に言ったように、愛情表現をしない男性があまりにも多くて、「恋のほうが幸せなのでは?」と思っている女性もいる、と。
愛は自然な行為ではない
二村 社会的には、高度成長期からバブル期にかけて、恋のほうが愛よりももてはやされていました。それは、恋のほうがお金になるから。
川崎 女性にとって恋のほうが気持ちがいいんですよね。そうなると、消費がうながされる。
二村 そうなんです。そのあたりは、ぼくの『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』という本にも書いたんですけど、女性向けの雑誌にあるモテ指南というのは、ほとんどが消費を促す広告になっているんですよね。それを真に受けて生きていると、女性は「女であること」と「人間であること」に引き裂かれてしまう。
川崎 女性誌の啓蒙をキャッチしてしまうと、しっかり働かなきゃいけないし、すてきな結婚相手を見つけて結婚しなきゃいけないし、かわいい子どもも産まなきゃいけないし、家事育児しっかりやらないといけないし、それでいて女性としても輝いていないといけない。もう、それって何人分の人生?っていう。
二村 男は男で「男であることは、すなわち人間であることだ」みたいな価値観に、無意識に何千年もあぐらをかいてきたので、引き裂かれないですんでいた。でも、今は男も相当キツいと思います。
川崎 これからさらにキツくなりますよね。
二村 で、本当に首がしまって死にそうになるまで気が付かないのが、男の気持ち悪さです(笑)。女性は、恋をするとちょっと病んだりするじゃないですか。心の圧力に対しては、女性のほうが敏感なんですよね。そして、矛盾しているようですが、こんな状況では病んでるほうが健康なんじゃないかとも思うんです。
川崎 二村さんは先程おっしゃった『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』で、女性の心の穴について書かれています。でも、心の穴って、別に精神の病のことをさしているわけではないですからね。
二村 そうです。あらゆる人間には、親からあけられた心の穴が開いている、とぼくは思っています。それをぼくは「トラウマ」とは呼びたくないんです。誰の心にもある、ごく普通のものですからね。その穴が、その人が何をモチベーションに生きていくかという源泉にもなっている。その穴を埋めようとする行為が、恋です。
川崎 恋で心の穴は埋まるんですか?
二村 一瞬埋まったような気がします。だから、気持ちがいいんです。でも、愛は心の穴を埋めようとすることとは、最も遠い行為なんです。愛は「あなたはそのままでいいよ」と目の前の人に言うこと。これって何の見返りもないことなんです。だから、人間が自然にとる行為としてはなかなか難しい。というか、普通にしてたら無理。
川崎 無理、まで言っちゃいますか(笑)。
二村 そこで、『愛は技術』という話なんです。
(会場・拍手)
川崎 ありがとうございます(笑)。
二村 これはもともと、川崎さんもぼくも好きな、エーリッヒ・フロムという心理学者・哲学者が言ったことなんですよね。人間はエゴを捨てて愛することはできない。そんなことは神にしかできないんだけど、愛することを学ぶことはできる、と。
川崎 人生で何度も失敗を重ねてくると、関わってきたすべての人が愛しく思えてくるんですよね。昔警察に突き出したDV彼氏だって、「彼も苦しかっただろうな。お別れのときに最後抱きしめてあげればよかったな」と思えるようになる。だから、歳をとることで愛に近づくのかな、と思うんです。
二村 人生をかけて、学んでいくということですね。
(次回へ続く)
構成:崎谷実穂
愛を乞うより、愛してしまえ。あなたを幸せにする「愛する技術」がここにつまっています!