「犯罪者による自伝」の規制を見直すきっかけ
前回の記事でご紹介したMary Bellは、当時仮釈中であったのにも関わらず、法務省に出版を通知していませんでした。仮釈放中の身分の場合、国内外の移動、会う人、住む場所、活動などに制限がかかります。また常に政府の監視下におかれます。出版も監視対象の活動なので、通知が必要だったのです。
(http://www.publications.parliament.uk/pa/cm199798/cmhansrd/vo980722/text/80722w04.htm#80722w04.html_sbhd8)
当時の内務大臣であるJack Strawは、出版により、匿名性が暴かれ、マスコミに住んでいる場所や家族のことがばれてしまったMary Bellに関して、「出版社から報酬を受け取ったことは重要な間違いである」と述べています。当時の首相であるブレアからも批判の声が出る騒ぎとなりました。このイギリス中で話題になった事件は、政府が、犯罪者による自伝や、犯罪に関する書籍の出版の規制を考慮するきっかけとなりました。
被害者家族が、メディアを通して出版を批判したこと、Jack Strawに手紙を書き、書籍回収を訴えたことも、議論に拍車をかけました。ここまでの流れは、日本における少年Aの手記を巡る動きに大変よく似ています。
ただし、大きな違いは、イギリスの場合は、ここで政府が実際にアクションをとったことでした。政府の動きは早く、1998年から1999年にかけて、政府内で検討会が実施されました。犯罪者に関する書籍の出版を包括的に禁止する法律を作る、もしくは、法を改正することは、現実的に困難と考えられたため、犯罪者が、出版により利益を得ない仕組みを作ることが提案されます。
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