さて、矢野さんのお話も五回目。技術から幸福までいろんなことをうかがってきましたが、最終回はディープラーニングではなく「リープラーニング」という特許によって成り立つ日立のスパコン「H」と、センサテクノロジーの未来についてです。
心と科学は混じり合うのか?
—— 「幸福論」に影響を受けたというお話ですが、小説とか……例えばSFからインスピレーションを得たりしますか?
矢野和男(以下、矢野) うちの娘が『蒼穹のファフナー』っていうアニメが好きで、私も見てます(笑)。
—— ああ、ファフナー(※)。
※近未来、未知の生命体”フェストゥム”によって侵略され人類存亡の危機に瀕した地球で、南海の孤島”竜宮島”を主な舞台とし少年少女たちが巨大ロボット”ファフナー”に搭乗して島を守る、という筋書きのサンライズアニメ。
矢野 あれはまさにさっき言った、全体と個の話ですね。
—— 敵であるフェストゥムのほうに個がないんですよね。
矢野 海外SFでは何と言っても、アシモフの「ファウンデーション」シリーズですね。あれは全部むさぼるように読みました。扱われている大きなテーマが、心理学とテクノロジーの融合というか、相克・対立なんですよね。あの作品は大好きです。
—— SFって歴史的に、人間を超えたものを描く、というメタ文学みたいなところがあります。でも最近はもう現実がSFに追いついちゃってると思うんです。普通に現代の最先端で起きてることを書けば、SFになってしまう。だから、ぼくはSFにはより遠い未来を書いてほしいと思っているんですけど。矢野さんの研究も、もうSFに追いついているじゃないですか。
矢野 『宇宙兄弟』の編集として有名な佐渡島傭平さんと対談したときに、佐渡島さんも、「人間を理解するには文学的なアプローチが一番だと思っていたけど、科学が今それをできるようになってる」という話をされていました。
—— それはまったく同じ認識です。文学はもっと科学を取り込んでいかないといけない。……とはいえ、人間の感情は普遍的で、新しい感情というのはなかなかない。それでもどこかは更新できるだろうと。たとえば、最新のセンサで出てきた結論が、伝統的な価値観だとか、そういうのだって面白いと思うんです。
矢野 例えばこんな実験も報告されています。お子さんを亡くされた親の方がどのくらいの期間で精神的に回復するかを調べると、信仰を持ってる方と、持ってない方で明確に回復速度が違う。前者のほうが回復速度は速い、というデータがあります。宗教の効果に関するエビデンスが出ているわけです。
—— 僕が最近見聞きした研究で、心は結局折れるから、それを前提に、折れたときの回復度合いを研究する「レジリエンス」というものがありました。もともと物理弾性の話ですが、そんなふうに科学的に心を研究する方向は加速していくかも知れませんね。
ディープラーニングじゃない、「リープラーニング」だ!
—— 矢野さんの本の中で、ビッグデータ解析用の人工知能「H」というのが出てきますよね。これはディープラーニングによる人工知能なんだろうな、と思って読んでたら、「リープラーニング」という謎の特許が出てきたんですが……これは?
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