AV監督と腐女子、歴史的邂逅
二村ヒトシ(以下、二村) おかげさまで『オトコのカラダはキモチいい』たくさんのみなさんに読んでいただきまして、重版もかかりました。このほどニコ生に公式チャンネルもできまして、本日は幕張メッセで開催中のニコニコ超会議の会場に、金田淳子さん(社会学者、やおい・BL・同人誌研究家)、岡田育さん(文筆家)、僕(AV監督)の著者3人が集結いたしました。生配信でお届けしています。
岡田育(以下、岡田) そしてゲストには、お笑い芸人でありBL愛好家でもある、サンキュータツオさんに来ていただきました!
左から岡田育、金田淳子、サンキュータツオ、二村ヒトシ
サンキュータツオ(以下、タツオ) ごきげんよう! どうぞよろしくお願いします。
金田淳子(以下、金田) お忙しい中ありがとうございます!
タツオ 僕は「TV Bros.」で『オトコのカラダはキモチいい』の書評※を書かせていただきまして。
※記事文末に特別掲載させていただきました。
二村・金田・岡田 ありがとうございます!
タツオ BL界に足を突っ込んでしばらく経ちましたが、BLの中で描かれる「やおい穴」で何が起こっているのかっていうのは長年の疑問だったんです。
金田 人類の三大謎といえばね、ピラミッド、ナスカの地上絵、そしてやおい穴だから。
二村 世界三大神秘。
タツオ それがこの本を読んでようやくすっきりした。本当に名言ばかりで素晴らしい本です。
金田 タツオさんはわかってくれると思ってました。
タツオ この本は腐女子の冒険の書だなと。だって、腐女子とAV監督って一番対極にいるような存在じゃないですか。
二村 ぼくもそう思っていました。
金田 どちらも性を追求しているけど、接点はないと思われていた。
タツオ 交わらないと思われていた両者が、やおい穴という共通点で結びついた。これはもう歴史的邂逅ですよ。
岡田 砂場に山を築いて、それぞれにトンネル、いや「穴」を掘ってたら、反対側からも掘ってきてる人がいた感じ。
タツオ そう。富士山を山梨側から登った人と、静岡側から登った人が頂上で会っちゃったみたいな。
金田 あ、おんなじところだったんだ! と。
タツオ それに、カバーの雲田はるこ先生の絵も素晴らしい! このイラストだけで本の値段は回収できると思う。
一同 そうでしょう!
金田 もはやカバーのイラストがメインで、中身を読んでもらうと、さらにこのイラストを違った見方で楽しめますよ、と。
男子は人生の4分の1しか生きていない
タツオ この本の何がすごいって、やおい穴と乳首に関してものすごく深く掘っていることです。やっぱり僕みたいな二次元のBL愛好家は、精神性を根拠にBLを支持していて、「オトコって可愛い」という観点で二次元BLを追いかけていたんです。だから、身体性を考えないようにしていたんです。
金田 やおい研究全体でも、身体性にはフタをされがちですね。
タツオ この本の最初に書いてあるように、BLのいわゆる絡みのシーンって、みんな脳内変換されるわけですよね。
金田 絡みのシーンがうまく消されているからこそ、それぞれ理想のものを妄想していると思う。ボカしてあるからこその良さです。
タツオ そんなふうに脳内で楽しまれてきたBLについて、この本は肉体考証してくださってる。
岡田 そうなんですよ! AV監督である二村さんが、今まで積み重ねてきた男の体の研究、これが観念や精神性に偏りがちな我々に、これほど示唆を与えてくれるものだったのかと。
タツオ くわしくは本書を読んでほしんですが、これはぜひ男の人に読んでほしい。BLを知らない人は人生の半分を損してる。そして、男性は自分の体の可能性に気づいていない。それで半分さらに損してる。つまり、一般の男子は人生の4分の1しか生きていないんです。
一同 そうだそうだ!
タツオ この本には、乳首に関してすごく詳細に書かれています。男乳首がBLでどう描かれているのか、分類表もあったりと本当にすごい。
ただ、一つ気になったのが、金田さんが「実際、今やBLにおいて乳首は不可欠なものとなっています。受けの乳首を描くことは憲法で定められた義務の一つですよ!」(『オトコのカラダはキモチいい』p.119より)と。金田さん、嘘はいけませんよ(笑)。
『オトコのカラダはキモチいい』P121より
金田 東大法学部卒ですけど……。
二村 高学歴の無駄遣い(笑)。
岡田 そこ、金田さんの中ではとっくに改憲済みですから。『芦部憲法』ならぬアナル憲法を学びましたと。
一同 (笑)。
タツオ 分類が学者らしいものもありまして。
①乳首は受けを表す性的なシグナル。乳首を見た攻めは、自動的に発情する。
②受けは、他者に乳首をいじられると発情する。
③攻めは、他者に乳首をいじめられると受けになる。(受けスイッチ)
(『オトコのカラダはキモチいい』p.131より)
金田 たいていのBLは本当にこうなっています。
タツオ 「攻めは、他者に乳首をいじられると受けになる」。これはほんと大発見だと思います。
金田 なかなか攻めの穴とか竿にいけない時に、まずは乳首から。
岡田 もちろん前立腺が最大のスイッチになると思いますけど、前段階として押しやすいスイッチが胸についている。
二村 さらに言うとですね、金庫を開けるみたいに乳首を右にひねったり左にひねったりしていると、だんだんアナルが開いてくるように思います。
タツオ ゆっくりほぐしていく前段階として乳首というスイッチがあるんですね。
二村 これはまあ僕が主観的に思うだけで医学的な根拠はございませんけれども…….。
岡田 私は東大医学部卒ではないですが、ないと断言できますね。
リバーシブルで男を360度楽しめ!
タツオ 受け攻めの話でいうと、最近はリバーシブル*が好きというか、BLってそもそもデフォルトでリバーシブルなんじゃないかと考え始めました。
※リバーシブル:BLにおけるカップルの受けと攻めが交換可能な関係
金田 いいとこ気づいた! もちろんリバーシブルが偉いとか言いたいわけじゃないんです。
ただ、男女じゃなく男男でセックスを描きたい、見たい理由の一つは、入れ替え可能性が確実にあって、それにもかかわらずそのときは攻めや受けを選んでいる、ということが重要だからだと思います。また、攻めにも受けの側面、受けにも攻めの側面があるので、それをさらに掘っていく楽しみがあること。
タツオ 受けが確定している時点で男女の延長でしかないじゃないですか。同性として絆を確かめ合うならば、受けが最終的に攻めもできる瞬間を見たいと思ったんです。受けも攻めも、全部見たいと。
二村 僕はむしろ、男女でのセックスにこそ、リバーシブルという概念がもっと導入されていいんじゃないかという考えです。時には女が男を抱き、男は声を上げてヨガる。そういうカップルが現実にも増えたほうがエロい世の中になると思うんですよ。また、僕はレズもの※のAVも撮りますが、レズものでもタチネコが確定されていないほうがいい。学校が舞台で女子高生と女教師みたいなカップリングの場合、女教師のほうが大人なわけですが、セックスでは女子高生のほうが主導権を握っているとか。力関係の逆転がおきたほうが美しい。
※レズもの:男女の性行為ではなく、女同士の絡みを撮ったAVのこと。
タツオ ドラマチックですよね。
金田 とはいえ、カップリング固定派の方が主流ではあるんです。それについて低級だとか言いたいつもりはありません。最初に言ったように、同性であり、入れ替え可能性があることが重要ですから。ただ、私なども、ある固定のカップリングが好きすぎて読み続けていると、そのうち受けが攻めに、攻めが受けに見えてくるときがあるんです。これは、受け攻め固定派の人も身に覚えがあるんじゃないかな。
タツオ そうなんですよ! 例えば、今度アニメ化する『同級生』※のどこで一番萌えたかというと、草壁くんが攻めキャラなんだけど、佐条くんにお弁当を作っていくんです。そして、お弁当を佐条くんが食べている時に感想が気になりすぎて悶えてるんです。その草壁くんが可愛すぎる。その“受け受けしさ”はなんだよ!と。
※『同級生』:中村明日美子による、思春期に揺れる少年たちを描いたボーイズラブ作品。アニメ劇場映画化決定。
岡田 お弁当の感想を言うまでは、攻めが受けになっているというか、魂は逆転しているんでしょうね。「攻めか受けか」って、単に性交時の「棒か穴か」だけじゃないし、むしろこうした魂の逆転可能性に、身体のほうも追いついてきたらいいのに、と思う……。
タツオ 僕は悲しんでいる姿も見たいからいじめてほしいし、喜んでる笑顔も見たい。受けてるところも見たいし、攻めてるところも見たい。最終的には360度、男キャラに萌えたいんです。
金田 あるキャラについて360度楽しみたいと思ったら、リバーシブルになっていくのかもしれないですね。それは一冊の本というパッケージ化されたものだと、作品の完成度が下がるとか、一貫性が失われるなどの理由で難しいかもしれませんが、同人なら、それも存分に楽しめますよ。私はそういう意味では、集団的で雑多で一貫性のない同人誌の集まりのほうが、精密で一貫性の高い一人の作品よりも、おもしろく感じることが多いです。
岡田 同人は無限ですから。それが、同人が(底なしの)“沼”たる所以ですね。
次回「路地裏の生命体による完全なるファンタジー」、6/22(月)更新予定。
ブロスの本棚 40冊目
『オトコのカラダはキモチいい』二村ヒトシ 金田淳子 岡田育
二次元を愛する腐女子たちが三次元のAV監督と邂逅し男の「アナル」「乳首」について意見交換した歴史的一冊 (文・サンキュータツオ)
BL愛好家として何の気なしに読み始めたが、すぐにこれは事件だと気付いた。どうしても声高に言いたい。本書は「大人向け保健体育の教科書」として文部科学省に推薦すべき歴史的一冊だ!
というのは、いわゆる「腐女子」といわれる岡田育さん、おなじく腐女子でBL研究家の金田淳子さんという二次元同性愛愛好家たちが、普段交わることのない三次元エロ探求者のAV監督の二村ヒトシさん(痴女AV、レズAV、女装娘AVの生みの親ともいわれる)と邂逅し、主に男の「アナル」と「乳首」という共通点で意見交換をした点で、画期的だからだ。
言葉のどぎつさに惑わされないでほしい。BL愛好家にとって、なんかボカして描いてあるけどキャラクターAはキャラクターBのどこに男根を入れているのか、あるいは、マンガにおいて乳首がどれほど正確に描かれているのか、ということは大事な問題だ。なぜか「アナル的な部分」からは液体が出ているときもあるし、締め付けが可能な女性器に近い機能が散見されることもある。裸体に乳首が描かれていないときもあれば、ばっちり乳頭まで描かれている場合もあって、そのキャラは受けになることが多い。これはなんだ? 本当に男のカラダなのか? それともファンタジーなのか? 作品のリアル度にもよるし、読者にも一人ずつ見解があって意見の一致をみない。でも、避けては通れない大事な問題だ。
我々は普段、あまりにも男のアナルと乳首について語り合っていない。男はいつも男根とその周辺だけがクローズアップされ、男性自身もそこでいかに気持ちよくなるかしか考えていない。男は、脳も、快楽のツボも、10パーセントくらいしか使っていないのかもしれない。本書は三人の鼎談に、アナルと前立腺に詳しい女王様、乳首の快楽を追求して乳首が肥大化した男性、実際のゲイの方、そしておっぱい研究家などがゲスト出演し、「男のカラダG7」(GはGスポットのG)のような国際シンポジウムを展開する! そこには男性のカラダに関する驚愕の事実が続々と示されていた。
【ある種の人たちには男性器がついていて、ある種の人たちには女性器がついている。男と女というのは、それだけの違いであって、みんな「心のチンコ」と「心の穴」は両方持っているだろうと思うんです。でも、それを許容するような文化が今の社会ではまだ未熟です】という二村の発言は、二次元と三次元のエロがガッチリ握手をした発言でもある。
私がなぜ「アニメ好き」「美少女キャラ好き」から「BL好き」へと触手を伸ばすにいたったのか、自分を見つめる上でも大きな参考になった。いままで精神性ばかりが着目されていたBLに肉体性の考察が入ったことは、本書の斬新なところでもある。
BLとはなんぞや? という人も、二次元愛好家も、また男女の快楽のすれ違いに興味がある人も、さらに日本男児は全員、ぜひ読んでおいてほしい。図解も豊富。首から上と、腰から下を同時に気持ち良くさせる術が、本書には書かれている!
(「TV Bros.」2015年4月18日号、102ページより)
撮影・構成 加藤浩
あの三人が、ニコニコ生放送に帰ってくる!
6月24日(水)21時~より。いったい何が語られるのか……
【おかげさまで大反響、続々重版出来!】AV監督と腐女子の歴史的邂逅が一冊に。まだご覧になっていないかたは是非!
珍論文ハンターのサンキュータツオさんが、様々な珍論文を突っ込みながら解説する、知的エンターテインメント本!