まずは友美へ。
[今度の水曜ミーティングは出席できる?]
僕と友美の間で、『水曜日ミーティング』は、仕事帰りにいつものラブホに行くことを表す秘密のコードだった。水曜日は彼女の日だ。
次は由依へ。玲子とセックスしたあと、僕は彼女のことをより愛おしく思うようになった。
[勉強がんばってる? 明日、家でごはん食べない?]
スランプから抜け出し、玲子というAクラスの女に自信を持ってアプローチできたのも、すでに由依という21歳のAクラスの女で実績を作り、モテスパイラルに乗っていたからだ。僕に自信を与えてくれた彼女の貢献を考えれば、尊重されてしかるべきだ。月曜日の夜の優先権は、まずは由依に与えることにした。
そして、玲子へもメッセージを送った。女は、男とセックスしたあとに、またデートに誘われるのかとても不安なんだ。僕は女を不安にさせて自信を奪うような、ひどい男じゃない。
[今週は仕事で会えるね。仕事以外でも、僕はまた、玲子に会いたいと思ってる。今週はいつが空いてる?]
ナンパで収集した女たちのLINEに対して、絨毯爆撃を開始。
Aクラス以上という縛りで、これだけの数の女の連絡先を収集するのが、どれほど大変なことか、ナンパを本格的にしている男なら誰もが理解するだろう。
[元気?][何してんの?][ナンパだからって、無視とかなしね。とりあえず、連絡してよ。][久しぶり。メッセージありがとう。最近、何してるの?][わたなべだよ。覚えてる?][元気? 火曜日のランチの時間空いてる? おいしいパスタのお店を見つけたんだけど。][水曜日の3時ぐらいに、たまたま品川のほうに行くんだけど、お茶でもどう?][また、クラブにいっしょに行きたいな。さっそく、木曜日の夜なんかどう?]……
次々といろんな女たちから返事が来る。僕はそれらの一つひとつに適切な言葉を返していく。全国高等学校総合体育大会に出場する卓球選手みたいに。
[とりあえず、連絡した。][なんか、もっとかわいいメッセージ送って欲しかったな。「本当に連絡してくれたんだね、ありがとう!」みたいな。]
[パスタ行きたい!][11時半はどう? 12時すぎると混むからさ。]
[水曜日はちょっと出れない。][じゃあ、また、別の日に誘うよ。]……
……
友美から返事が来た。[うん。水曜ミーティング出れるよ。またね]
[OK]と返す。
……
[えー、私、そんなにクラブなんかに行かないよ。何か私のこと誤解してない?][ごめん。誤解してたみたい。次は、僕の部屋に直接誘うよ。]……
……
23人の女にLINEを送って、返事が返ってきた11人の女たちと僕はいま同時に会話している。
僕のPC画面に、それぞれの女に対応するLINEのウィンドウがびっしりと並べられている。11個も並んだ自撮りのキメ顔のアイコンや犬の写真なんかが、次々と僕に話しかけてくる。お互いに知り合うわけがない女の子たちが、まるで友だち同士みたいにスクリーンの中で並んでいるのはとても不思議な光景だ。
じつは11人ぐらいと同時にチャットするのは、聖徳太子ほど聡明である必要はなかった。タッチタイピングさえできれば誰にでもできる簡単なことだ。大学に通っていない18歳のキャバ嬢でさえ、もっと多くの客と同時にチャットしているのだ。
瞬く間に、月曜日から金曜日までのランチとディナーの予定がすべて埋まった。
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