目の玉が飛び出るほどの高価なドレス
アメリカのお金持ちの悩みはまだまだあります。
私がそれを知ったのは、数年前の冬のことです。
なだらかな丘を車で登って行くと、ホワイトハウスを横長にしたような白い建物が見えてきました。正面入口の前のアーチ型ドライブウェイにはメルセデス・ベンツGクラス、ポルシェ・カイエン、アウディR8といった高級車が並んでいます。夫がその列の後ろに車をつけると、制服を着た肌の浅黒い男性が近づいてきて車のドアを開けてくれました。
車から出て寒気に震える私を、彼は笑顔で迎えてくれました。
「フェリッツ・ナビダッド!」
意味がわからず戸惑って周りを見渡すと、正面の扉の両脇に並んだ制服の男性たちが口々に来客に声をかけています。
「フェリッツ・ナビダッド!」
前に並んだ車から出てきた人々を見て、私は自分が着ている古ぼけたコートを突然後悔しました。 近年の動物愛護ブームで悪者になった毛皮のコートが、ここでは堂々と受け入れられているようです。長毛のフォックス、柔らかそうな黒テン、つやつや光るミンク……。毛皮やデザイナーブランドのカシミアコートの後に、ディスカウント店で買った私の古いコートを預けるのは気がひけます。つい、コート係に「アイム・ソーリー」と謝りそうになりました。
ここは、コネチカット州グリニッジにある会員制社交クラブ「グリニッジ・カントリークラブ」。私たちは家族のクリスマス・ディナーにやってきたのです。