かつてまだ私が人妻であった頃、「妊娠、出産を経て人が変わってしまった」と夫は言った。私には全くそんな自覚はなく、むしろ変わってしまったのはあなたのほうでは、というくらいの気持ちで、当時はろくに取り合わなかった。しかし最近あらためて身の回りの既婚男性たちの話を聞くにつけ、やはり妊娠、出産を契機に、多くの妻たちは犬や猫のそれと同じように、気を荒立て、ふとしたことで噛み付きかねない危険な存在と変化するようだと知った。
言われてみれば確かに、もっと子供が小さかった頃、私は今より頻繁に、鬼のように怒っていた。子供の教育に必要だったし、大人の言葉が通じない子供相手のストレスもあった。こんなに大変な思いを少しでもわかってほしいという元夫に向けたメッセージでもあった。しかしそんな風に冷静な自覚があったから、自分の怒りは制御可能なものであり、必ずしも妊娠・出産に伴う本能的な何かが作用しているとは思わなかった。ただ今となって考えると、備わっていたはずの制御機能は今ひとついい働きをしなかったようにも思えるので、夫の指摘も正しかったのかもしれない。
私の話はさておき、産後、豹変してしまった妻との接し方について、世の中の男性たちはその実、妻が想像する以上に深刻に悩んでいる模様。何しろ最近、友人の既婚男性らが口を揃えて言うのだ。
「家に帰るのが怖い」と。