同じようだが、均一ではない。
顔の出ないアクターにとっての「個性」とは?
いまは少なくなったが海外からのニッポン人に対する批評に、「ドブネズミ色の背広のサラリーマン」というのがあった。ステロタイプで個性に欠けるということだが。ほんとうにそうか。
ニッポン独自の“戦隊”ヒーローたちもまた特製スーツに身を包み、忍者のように顔すら隠してアクションをする。衣装がカラフルなのは固体識別の意味もあるのだろう。
一見、均一の和製ヒーロー。しかし「なかのひと」となって演じる彼らは「同じ」に見えて、じつは個々にこまかな演技の工夫もありマインドもちがう。けっこう奥が深いのだ。
所属する「劇団BRATS」の舞台前練習中
── うかがっていると「なかのひと」にも段階があるんですよね。メインキャラクターのスーツの着脱を補助する人、戦闘員、怪人、ヒーロー。どのようにしてステップアップしていくのですか?
人見早苗(以下、人見) わたしの場合は、ほんとうに運良くたまたまキャラクターをやらせてもらえました。どのようにして役が決まっていくのかは、わたしも決める立場の人間ではないので分からないですが、入ったばかりの時は、後楽園のヒーローショーやテレビの現場を行き来しながら補助から始めて、戦闘員をやって、チャンスがあれば怪人やをやってとか、昔からそういう流れはあるようです。
自分の当時を思い出すと「運」とか「タイミング」も大きいんじゃないかと思います。
── 怪人役までにも道程があるんですね。
人見 必ずというわけではないですが、補助や戦闘員で頑張っていたりすると、「あいつにやらせてみようか」とまわりからオシがあって、怪獣のチャンスがめぐってくることもあります。場合によっては、キャラクターをやらせてもらえる可能性もあったり、ひとそれぞれみたいです。
とくに怪獣はストーリーテーラーでもあって、「極悪非道なほどヒーローが引き立つので、悪役はすごく重要な役なんだ!」と先輩の話を聞いて、なるほど!と思いました(笑)。
── 怪獣が人気だというのは、ぼくらの昭和のウルトラマンの時代から変わりませんね。
人見 これは後々聞いた話ですが、「ゲキレンジャー」のキャラクターは、先輩が「彼女はテコンドーの経験がある」というのをまわりに話して下さっていて、他にも事情はあったようですが、「今度の戦隊はカンフーがモチーフだから」というので、つながったと聞きました。運とタイミングがよかったと思います。カンフーものの戦隊じゃなかったら選ばれていなかったかもしれないです。
多少、謙遜も入っているだろう。ひとつたしかなことは、遠回りに思えた大学時代に励んだ部活がこのとき役立っている。スーツアクターの世界のキャスティングに関していうと、役柄や身長、体型、戦い方の特性などの要素で決まっていく。とくに戦隊のキャラクターは身体のシルエットがはっきり出てしまうので、厳選されるわけだが、逆に小柄をいかして男性が女性キャラクターを演じることもあるという。
── 達成感があるのは、どういう瞬間ですか?
人見 ……(しばらく考え)「ゲキレンジャー」の劇場版で「さあ、いくぞ」とポーズを決め、戦隊の3人が揃って宙返りをし、敵に向かっていく。そういうシーンがあったんですが、高いところから宙返りをするというのは初めてだったので、うまくできなかったんです。 監督のOKは出たんですけど、すごく悔しくて。その後にテレビの最終回で同じような場面があって、思い切りやったら今度はうまくできたんです。
── リベンジできてよかったですね。
人見 「ゲキレンジャー」は、わたしにとって初めてづくしだったので、思い出深いです。最初は言われるままだったのが、「こういうふうな動きをつけていいですか」と(監督にも)提案できるようになったり、それを採用してもらえたり、成長できたのが嬉しくて。それだけじゃなくて作品としてもずっと世に残っていくので、やりがいも大きいし、責任もすごく感じました。こんなので答えになっています?
── なっています、充分。出演した作品を見返すことはあるんですか?
人見 ありますね。しょっちゅうじゃないですけど(笑)。見ては、落ち込みます。ぜんぜん、できていないなって。とくに「ゲキレンジャー」は緊張しているのがわかるんですよね。動きが硬いし。当時の映像見るとウルウルしてしまいます(笑)。
最初のころ、テストを何回やってもうまくできなくて、でも周りの方たちから「思い切りやれ」って言ってもらい、その優しさと悔しさとあせりとで、じつは泣いてしまってたんです。お面のおかげで、「はい本番いくぞ!」「お願いします!」とそのまま続けられましたが。
── そういうときにお面はいいですね。
人見 いえ、ほんとうはダメです(笑)。でも、目がものすごく腫れたときも、お面があったおかげで大丈夫でした。
助けられたというと、「ゲキレンジャー」のときに盲腸になってしまって、代わりを蜂須賀(祐一、女形スーツアクターの第一人者)さんにやって頂いたこともあり、ゲキレンジャーはほんとうにいろいろありました。レギュラーという責任の重さや、自己管理の重要さを痛感した一年でした。
── 男のひとの多い現場だと思うんですが、「女だから」ということで気づかいされることはありますか?