焼畑農業と化しているビジネス書業界
山本一郎(以下、山本) ビジネス書って実際いまどうなの? たまにあの手の出版社でもおもしろい本があったりもするけど。
漆原直行(以下、漆原) ビジネス書はほとんどが焼畑農業的ですよね。一度出せばすぐネタが尽きるような著者を引っ張ってきて、ローコストで本を作る。それでも何作かに1作、ビッグヒットが出れば回収できますから。あと、社長本はもうエンタメ本として読む。それぐらいの距離感のほうが、かえっておもしろい。
中川淳一郎(以下、中川)社長本って本来、企業の規模や格と密接に関わるはずじゃないですか。
山本 うん?
中川 いやね。例えばなぜゴーン社長の本を読みたがる人は多いのに、豊田章男の本を読みたがる人はそこまでいないのか。企業としての日産は、規模も知名度もトヨタの足元にも及ばないじゃないですか。なのに「社長本」のニーズとなるととたんにゴーンの人気が高くなる。
山本 パッケージングの力じゃない? カルロス・ゴーンの持ってるパッケージ力と、豊田章男のパッケージ力の差。
漆原 もう単にゴーンさんのキャラが立っているからと言う説もある(笑)。スズキの会長兼社長である鈴木修さんもそうだけど、キャラを立てるとひとりにフォーカスを当てやすい。トップの経営手腕という文脈に乗せやすいんじゃないですか。
中川 でも、企業規模で言えば、トヨタのほうが大きいし、純粋な経営者としての力量では豊田章男のほうがすぐれている可能性はあるわけですよね。
山本 それは……何とも言えない(笑)。
漆原 大きすぎるうえ、歴史もあるから社長の求心力単体に焦点を当てづらいんですよ。あと、トヨタには社内で培ってきた「かんばん」方式や「カイゼン」など、世界的とも言える企業内の仕組みがある。「社長本」以外の切り口の方が作りやすい。
コンテクストで読むという方法
中川 経営者本で言うと、いま渡邉美樹の『きみはなぜ働くか。』がおかしくてしょうがないんだけど(笑)。