歴史あるビジネススクールにくだされた「不適合」判定
私はふだん、グロービスというビジネススクールで教員をしています。ビジネススクールというのは、普通の大学とは少し異なり、「企業経営の専門家」という職業人の養成に特化した教育機関です。日本では、我々のような大学のことを「専門職大学院」と呼び、通常の大学とは別の基準で文科省が設置を認可します。
その専門職大学院の分野において、この3月にちょっとした事件がありました。
公益法人大学基準協会という団体が「2014年度大学評価等の結果について」という発表を出したのですが、その中で経営系の専門職大学院である「ビジネス・ブレークスルー大学院(BBT大学院)」に対して、「大学院の基準に適合していない」という判定が出たのです。
この大学基準協会というのは、個々の大学の教育品質が一定水準に達しているかどうかを評価する「認証評価」を行う団体の一つで、実質的に日本の経営系専門職大学院の認証をほぼ独占しています。
BBT大学院と言えば、経営コンサルタントの大前研一氏が社長・学長を務める、2005年にできた最も歴史ある100%通信制のビジネススクールです。いったんは専門職大学院として認可を受けて設立された同大学が、なぜ今ごろになって「不適合」の判定を受けたのか。今日はその意味について少し考えてみたいと思います。
大学教育の幻想を支える「研究」と「教員」の呪縛
そもそも、大学基準協会はなぜBBT大学院に対して「不適合」と断じたのでしょうか。
同協会から公表されている「評価結果」のレポート(①, ②)を読むと、大きく2つのポイントにおいて、協会がBBT大学院を問題視していることがわかります。すなわち、
(1)「専任教員」と称する教員が、大学院の運営にほとんどかかわっていない
(2)実務教育に偏りすぎており、理論教育を支える「研究」が行われていない
というのが、その理由です。
多くの人が、この理由を聞いて「なるほどね」と思われるかもしれません。しかし、私には、この判定理由こそが、日本の高等教育における職業人養成をここまで立ち後れさせた原因であり、また今後隆盛を見るはずのオンライン教育においても、日本の大学は「やる前から負けが決まっている」と言っても過言ではないことの根拠のように思われます。
なぜそう思うのか、その理由を説明する前に、そもそも「教育」とはどのような要素によって成り立つのか整理しておきましょう。
当たり前のことですが、教育は「学習者」がいることがまず大事です。学ぼうという人のいない教育は、教育として存立し得ません。
次に、学習者に対して何を教えるのか、すなわち「コンテンツ(教育の内容)」が必要です。
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