『アル中ワンダーランド』ではご尊顔がおがめます!
「どれだけ酒を飲まないで耐えられるか」という耐久ゲーム
まんしゅうきつこ(以下、まんしゅう) 小田嶋さんはご自身のアル中体験についていろいろ書かれていますよね。『人生2割がちょうどいい』は本当に名著でした! 私自身がアル中で苦しんでいるときのバイブルでしたよ……。
小田嶋隆(以下、小田嶋) ありがとうございます。
まんしゅう 中川さんとは、1年ぐらい前に、一緒にお酒を飲ませていただいたことがありますよね。正直、その日は飲み過ぎて、もう全然記憶がないんですけど……。
中川淳一郎(以下、中川) え! 覚えてないの!? おっぱい出してましたよ! オレも飲むとすぐ記憶を飛ばしちゃうんですけど、まんしゅうさんの酔い方がすごすぎて、記憶飛ばす暇がなかったです。
まんしゅう えぇ、すみません!! 全然覚えてないですよー……。今日は今後の私のお酒とのつきあい方について、ぜひお二人に相談できればと思ってます。
『アル中ワンダーランド』より
小田嶋 僕は39歳の時に禁酒してから、もう20年になるんですが、まんしゅうさんは今、何日目になるんですか?
まんしゅう 禁酒してだいたい100日目ぐらいですね。
中川 え、100日? 絶対オレなら耐えられないなぁ。もう今は全然酒を飲みたくなったりしないんですか?
まんしゅう 「飲みたい・飲みたくない」というよりは、もはや、「どれだけ酒を飲まないで耐えられるか」という耐久ゲームみたいになっていますね……。
小田嶋 なるほど。わかります。
まんしゅう 小田嶋さんは禁酒から20年たっても「お酒を飲みたい」っていう気持ちはもう一切ないんですか?
小田嶋 ないです。もともと僕は不眠気味なときや不安があるときに、それを解消するために、酒を飲んでいたので。やめてしまった今はもう全然飲みたいと思わないです。
まんしゅう 私の場合は、お酒を飲まないと人とコミュニケーションが取れないんですよ。だから、お酒を一切飲まなくなったら、はたしてどうやって他人との距離感をつかめばいいのかわからない。すごく不安ですね。
中川 オレの場合、酒を飲むと単純に楽しくなるんですよ。だからこそ、どんなに酒で吐いたり辛い想いをしても、何度も飲んじゃう。小田嶋さんは断酒後、酒を飲んだときの楽しさとか高揚感が懐かしくなったりはしないんですか?
小田嶋 ありますよ。レイモンド・チャンドラーの小説で「酒を飲まなくなると、世界の色が薄くなる」みたいな一節があるんですが、断酒後はまさにそんな感じ。たまにあの世界が懐かしいなと思うこともありますけど、飲まないで得られるメリットが多すぎて、もう飲もうとは思わない。
まんしゅう たしかに。私もお酒を飲まなくなったらすごく効率的に仕事ができるようになったんです。「酒を飲んでいた時間は、本当に無駄だったんだな……」と。
小田嶋 僕も飲んでいる時代は1日3時間ぐらいしか仕事できなかった。飲み代もすごかったから、お金だけ考えてもベンツ2台分は節約できてるはずですよ。
アル中になる人は内臓エリート
まんしゅう ちなみに、お二人は最高どのくらいお酒を飲まれたことがありますか?
中川 オレはもっぱらビールだけなんですが、多いときは1日ビールを8リットルぐらい飲んでいました。
小田嶋 僕は、最初はビールでしたが、その後はウイスキー。最後はジンを2日で1本ぐらいですかね。しかも、ずっと酔っ払っていたいから、一気に飲むんじゃなくて、1日かけてちびちび飲むんですよ。すると1日中ほどよく酔っぱらえる。
まんしゅう わかります。アル中になると、「いかに少量で長く気持ちよく酔えるか」がポイントになるから、どんどんアルコール度数が高いものへと流れていくんですよね。
中川 たしか、以前小田嶋さん「アル中の時は実家にあった薬用の人参酒まで飲んでしまった」と言ってましたよね?
小田嶋 そうですね。当時は、アルコールが入ってれば、酒以外のものでも何でも見境なく飲んでいました。
まんしゅう 私もお酒がなくなると、家にあるワインビネガーからみりん、料理酒。あとは、化粧水用に買ってあったエタノールまで飲んでしまいましたね……。
中川 エタノールなんて飲めるの?
まんしゅう 飲めますよ。トマトジュースで割って飲んでました。それぐらいならまだいいんですが、うちには燃料用のアルコールがあったんですけど、あまりに私が家中のアルコール類を飲んでしまうので、家族が心配して缶にマジックで大きく「飲むな!」と書かれちゃいましたけど。
中川 ひゃー、すごい! オレの場合、どんなに酔っ払っても、飲む酒はビールだけなんですよ。だからこそ、自分はアル中じゃないと思ってますからね。
小田嶋 いや、中川さんのはちょっと特殊なケースだとは思うけれども、やっぱりアル中だと思いますよ(笑)。
まんしゅう アル中の怖いところのひとつは、どれだけ酒を飲んでいても、自分では頑なに「アル中じゃない」って思い込んでいることですよね。自覚症状がないというか。
小田嶋 でも、飲む量である程度判別がつくはずですけどね。まんしゅうさんは、どのくらい飲んでいたんですか?
まんしゅう 多いときは1日でウイスキー1本。少ないときは日本酒五合とかでしょうか……。
中川 え! そりゃ多いでしょ!!
小田嶋 多いなぁ。それだけ飲んでても自分のことを「アル中なんじゃないか」って疑問に思わなかったんですか?
まんしゅう 思わなかったですね。病院でやった血液検査でも、どの数値も全部健康だったし……。
『アル中ワンダーランド』より
小田嶋 いや、たしかにお顔を見ても肝臓が悪い人特有の肌の黄色さとかもないので、相当強靭な肝臓をお持ちなんでしょうね。多分、かなりの内臓エリートですよ。
まんしゅう 内臓エリート、ですか?
小田嶋 アル中って、肝臓や膵臓など内臓系の機能が優秀な人でないとなれないんですからね。
中川 あぁー! 確かに! 普通は酒を飲み過ぎると、アル中になる前に吐いたり、体調を崩したりするから、飲もうとは思わなくなりますからね。
小田嶋 そうそう。内臓弱者の人は絶対にアル中になれない。ある種、アル中になれるのは「選ばれた人」ですよ。
中川 オレも、あまりに飲み過ぎたときは水飲むだけでも吐いちゃって、その後は酒を1滴も飲めなくなります。
まんしゅう そういえば、私は飲んでも吐かないですね。
中川 普通は吐かざるを得ないんですよ。オレの場合、飲み過ぎるともはや胃が正常に働かなくて、10時間前に食ったタンメンのニラが黒ずんでそのまま出てきたり……。
小田嶋 それが常人。まんしゅうさんは、相当な内臓エリートですね。僕なんてウイスキーのボトルを1本飲んじゃったら、絶対に翌日は使い物にならなかったですよ。
まんしゅう そうなんですね。私、エリートだったんだ……。
次回、アル中鼎談の後編は4/8更新予定。
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小田嶋隆×中川淳一郎 アル中対談
あの姉弟を作った“普通”の家族|江森康之/まんしゅうきつこ
取材・文:藤村はるな 撮影:スギゾー
73年生まれ。ネットニュース編集者。毎日の飲酒量は数リットルにも及ぶ。酒により何度か体調を崩してもビールがやめられないプチアル中。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社)、『ネットのバカ』(新潮社)、『内定童貞』(星海社)など。
56年生まれ。コラムニスト。アルコール依存症になり、39歳から禁酒。著書は『地雷を踏む勇気』(技術評論社)、『その「正義」があぶない。』(日経BP社)など多数。近日アル中について綴った『上を向いてアルコール(仮)』(ミシマ社)を発売予定。
あのまんしゅうきつこさんの“アル中の日々”を描いたノンフィクション漫画が4/9発売!!
私は酔っぱらって、いろいろなものを失くしました。 ケータイを失くす——もしかしたら、人との関わりを断ちたかったのかもしれません。 メガネを失くす——もしかしたら、いろいろなものを直視したくなかったのかもしれません。 傘をよく失くす——もしかしたら、雨に濡れて人知れず泣きたかったのかもしれません。 私はこの頃、ひたすら闇の中を生きていたのです。