とびきりきれいな彼女の心
手に入れるには お金や宝石
いくら積んでも無駄なんだ
愛の喜び 贈ってやらなきゃ
おまえ自身を 払ってやらなきゃ
人間って 本当は自由に生きられる
だけど束縛されなきゃ つらいもの
愛する人のために 熱くなるんだ
そしたら彼女も愛のひもで
ぐるぐる巻きにしてくれる
(だけど義務にくくられちゃ駄目だ)
僕のそばでは すこし天然
世間の目には しとやかで
聖母マリアは知らないけれど
きっとおんなじ愛を持つ
彼女は完璧
強いて言うなら 欠点ひとつ
僕を愛しすぎてるところだけ
ふたりで食事 テーブルの下
彼女が愛する男の足を
自分の足置きにするとき
かじりかけの林檎 飲みかけのグラス
彼女が僕に渡してくれるとき
くちづけ拒むふりをして
いつもは隠してる胸を見せるとき
僕は本当に満ち足りて 本当に自由だ
ときには恋の話しもする
そんなときには 声を聞いていたい
言葉だけで十分 くちづけまでは望まない
彼女に宿る知性から
たえまなく 新しい魅力が
この部屋に溢れだしているから
畏敬の念が 僕を彼女の足下に投げる
よろこびあふれて 彼女の胸によりそう
若いやつには分からない
間抜けなやつには分からない
これが本当の享楽というもの
これが本当の自由というもの
利口になって快楽を求めなよ
そうしたら
いつかおまえが死ぬときに
天使が合唱の輪の中に
連れていこうとするけれど
おまえは彼女に うっとりとしてて
死んだことにも 気がつかないから
「僕は彼女と自由に生きる」
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749-1832)