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出るからには、自信のない姿で会見の場に臨んではいけない。斎藤慎太郎はそう思っていた。多くの棋士の中から選ばれた、5人の中の1人なのだから。
2014年10月26日。場所は東京・六本木のニコファーレ。ドワンゴ社が運営する「ニコニコ生放送」のイベントスペースである。電王戦FINAL出場棋士発表の場にまず姿をあらわしたのは、斎藤慎太郎だった。
イケメン。王子。
視聴者からリアルタイムで書き込まれる多数のコメントが画面を覆いつくし、斎藤の姿にかぶさる。
電王戦出場が決まり、斎藤が注目を集めることになる。しかし、若くて男前、というだけでは、この場には立てない。電王戦は、プロ棋士とコンピュータ将棋による真剣勝負の場である。
「迷いはまったくなく、出場を決めました。タイトルホルダーの方に私では不足だと思わせてはいけない。自信があると思ったから、今ここにいる」
PVの中で、斎藤はきっぱりとそう語った。
タイトルホルダーが出場する前に、ソフトを止める役割を担っていることを、もちろん斎藤は意識している。
第3回電王戦までの結果は、棋士側の大幅な負け越し。その結果を受けて、将棋連盟側に対してはタイトルホルダーの羽生善治四冠(44歳)や渡辺明二冠(30歳)をいつ出すのか、という声が向けられていた。
将棋連盟側は、まだその時期ではない、という姿勢を示した。しかしながら、文字通り後のない、「背水の陣」(渡辺)で臨むという姿勢も打ち出した。
電王戦FINALの出場棋士選考に当たって示された選定基準は、大きく挙げて2点である。まずは、強いこと。そして、若いことだ。
選ばれたメンバーは以下の通りである。
斎藤慎太郎五段(21歳)
永瀬 拓矢六段(22歳)
稲葉 陽 七段(26歳)
村山 慈明七段(30歳)
阿久津主税八段(32歳)
将棋界には、四百年以上の歴史がある。現在の将棋指しは意識をせずとも、自らが指す一手一手には、その四百年の歴史が反映されている。
同じように、この電王戦もまた、将棋界四百年の歴史の必然的な流れの中で起きているイベントだと言えよう。
斎藤慎太郎五段
斎藤が生まれたのは1993年4月。将棋界ではちょうど、中原誠名人に米長邦雄九段が挑む名人戦七番勝負が行われていた頃だった。結果は米長が4連勝で悲願の名人位に就いた。
斎藤の出身は奈良で、育ったのは大阪。7歳の頃に将棋を覚えて、すぐに父を負かすほどに強くなった。指導対局を受けたことのある畠山鎮七段に対して、10歳の時に自分で手紙を書いて、入門をお願いした。
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