ミステリーの世界に『このミステリーがすごい!』の年間ランキングがあるように、SFの世界にも『SFが読みたい!』というランキング本がありまして、毎年、100名を超えるSF関係者の投票によって、その年の「ベストSF」が決まる。
過去の1位作品の一部は、cakes版SFマガジンでも公開されてますが(「2010年代のベストSFは?」)、2014年の「ベストSF」ランキングでダントツ1位を獲得したのは、アンディ・ウィアーのデビュー長篇『火星の人』。
時は近未来。主人公は、人類史上3度目の有人火星探査に参加した植物学者兼エンジニアのマーク。砂嵐で飛ばされたアンテナに直撃される事故に遭い、死んだものと思われて、たったひとり、火星に置き去りにされる。ハブと呼ばれる与圧ドームは無傷だし、物資もたっぷりあるから、当面、生命の危険はないものの、地球との連絡は絶たれ、次に人類が火星を訪れるのは4年後。それまでは独力で生き延びるしかない。かくして、 “火星版ロビンソン・クルーソー” とも評されるサバイバル劇が幕を開ける。
食糧備蓄は1年分しかないので、あと3年分のカロリー源が必要——というわけで、前半のメインテーマは、なんとジャガイモ栽培。土作りから水の調達、細菌の世話などのディテールと、次々に立ちはだかる障害の克服過程がめちゃくちゃ面白い。
途中からは、地球サイド(NASAとその関係者)の話も加わり、全世界の関心を集める壮大な救出ミッションが立ち上がる。
本の帯には、 “赤い惑星で展開される『ゼロ・グラビティ』のリアル” の惹句が躍ってますが、どっちかというと、小惑星探査機はやぶさをめぐる迫真のドキュメンタリーがリアルな火星SFに転換された感じ? 必要以上に細かい描写に愛があふれる、究極のNASAマニア/宇宙オタク小説なのである。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。