koyori(電ポルP) /石沢克宜
第10回 涙
ぼくは茶の間に1人残される。許された、とは思わなかった。見捨てられた、と思った。両親はぼくを普通の大人に育てることを諦めたのだ、と――。大ヒットボカロナンバー『未来景イノセンス』の発売を記念して、一部を公開します。
黒谷さんに見送られて、下り最終のゴンドラに乗った。混んでいて、ぼくは奥のドア付近に押しやられた。ゴンドラが下降し始める心地よい重力の変化を楽しみながら、窓辺に顔を寄せる。低層の霧は晴れ、雨は止んでいる。星屑のように散らかった明かりの中からぼくの住んでいるマンションも見つけられそうなほどに、眼下の街並みがくっきりと見えてきた。
ゴンドラを降りて、家までの道を歩きながら考えた。お父さんとお母さんは、ぼくが今どこにいると思っているだろう。寝ないで心配しているだろうか。
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この連載について
koyori(電ポルP) /石沢克宜
人々が空に住むようになった未来の世界。空中都市ホクトに住む中学生のシマは、幼い頃から好意を持っているミドリと同じ高校を受験するも失敗してしまう。好きな人や親友たちと離れ離れになる現実から目をそらすシマだが、時間は無情にも過ぎ去って...もっと読む
著者プロフィール
VOCALOID曲のプロデューサー。ロックやバラードを中心とした幅広い音楽性を持ち、 思春期の若者が抱える繊細な感情のような、情感溢れる世界観のある楽曲
を得意としている。投稿する楽曲動画のサムネイルはいずれも一枚絵で統一されてお
り、そのすべてに電柱が登場している。代表曲は『サイノウサンプラー』『独りん
ぼエンヴィー』『曖昧劣情Lover』など。
脚本家。ライター業や映像制作などを経て、現在は舞台の脚本を中心に活動している。舞台版『ココロ』の脚本・演出を担当し、ドワンゴ主催のニコニコミュージカル『ニコニコ東方見聞録』にも参加。コミカルでテンポのよい舞台に定評がある。ノベル版『ココロ』では舞台の脚本をベースに新たな物語を書き下ろした。