koyori(電ポルP) /石沢克宜
第9回 本気
「シマくんはほんとにその子のことが好きなんだなあ……ミドリちゃん、だっけ」「ハイ……」 あらためて言われると恥ずかしい。頬が熱くなった。「いいなあ。大事にしてほしいなあその気持ち」 黒谷さんは遠い目をしていた。――。大ヒットボカロナンバー『未来景イノセンス』の発売を記念して、一部を公開します。
ぼくは、そこから一気に喋った。
今夜の出来事からさかのぼり、親に抗議するために家出してきたこと、進路のことで親とケンカしたこと、ケンカは選択校に落ちて浪人するとぼくが言いだしたから、そして浪人する理由は、好きな子と同じ高校に通いたいから——ということを、洗いざらい喋ってしまった。数年ぶりに会った、歳の離れた知り合いにどうして話をしてしまったのか。無理して飲み始めたブラックコーヒーに酔ったのか、窓から漏れてくる綺羅びやかな光に惑わされたのか。黒谷さんがぼくの進路に無関係だから、話しやすかったのかもしれない。
話し終わっても黒谷さんはずっとコーヒーカップを見つめて黙っていた。ぼくも話し終わってなんとなく黙ったままだった。吐き出してスッキリしたというのもあるし、これ以上話すことがなかったというのもある。
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この連載について
koyori(電ポルP) /石沢克宜
人々が空に住むようになった未来の世界。空中都市ホクトに住む中学生のシマは、幼い頃から好意を持っているミドリと同じ高校を受験するも失敗してしまう。好きな人や親友たちと離れ離れになる現実から目をそらすシマだが、時間は無情にも過ぎ去って...もっと読む
著者プロフィール
VOCALOID曲のプロデューサー。ロックやバラードを中心とした幅広い音楽性を持ち、 思春期の若者が抱える繊細な感情のような、情感溢れる世界観のある楽曲
を得意としている。投稿する楽曲動画のサムネイルはいずれも一枚絵で統一されてお
り、そのすべてに電柱が登場している。代表曲は『サイノウサンプラー』『独りん
ぼエンヴィー』『曖昧劣情Lover』など。
脚本家。ライター業や映像制作などを経て、現在は舞台の脚本を中心に活動している。舞台版『ココロ』の脚本・演出を担当し、ドワンゴ主催のニコニコミュージカル『ニコニコ東方見聞録』にも参加。コミカルでテンポのよい舞台に定評がある。ノベル版『ココロ』では舞台の脚本をベースに新たな物語を書き下ろした。