koyori(電ポルP) /石沢克宜
第3回 幼稚園時代
いくら当時の記憶が曖昧あいまいだからって、人がまるごと入れ替わってしまうなんて。幼稚園の思い出の中でもとくに印象的な出来事のはずなのに。浮かび上がった女の子”加賀谷ミドリ"とは一体――。大ヒットボカロナンバー『未来景イノセンス』の発売を記念して、一部を公開します。
「せんせえー、街の下を、ずーっと下に行くと、地面があるんだよね?」
タローは先生に縋りつくように言った。
「え? じめんて?」
アキコ先生はいきなりのことでなにを聞かれているのかわからなかったようだ。
「この街の、何百メートルも、何千メートルも下に行くと、違う地面があるんだよ! ね? そうだよね?」
タローは繰り返した。
ぼくは両手を握りしめていた。先生ならこの状況をなんとかしてくれる。それも正しい知識でもってこの場を収拾させるに違いない。
「街は雲の上に浮いてんだよー! 歌に書いてあんだよー!」
ナガトくんを始め周囲の園児共がまた騒ぎ出す。うるせえ。何も知らないくせに。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。
8480
false
この連載について
koyori(電ポルP) /石沢克宜
人々が空に住むようになった未来の世界。空中都市ホクトに住む中学生のシマは、幼い頃から好意を持っているミドリと同じ高校を受験するも失敗してしまう。好きな人や親友たちと離れ離れになる現実から目をそらすシマだが、時間は無情にも過ぎ去って...もっと読む
著者プロフィール
VOCALOID曲のプロデューサー。ロックやバラードを中心とした幅広い音楽性を持ち、 思春期の若者が抱える繊細な感情のような、情感溢れる世界観のある楽曲
を得意としている。投稿する楽曲動画のサムネイルはいずれも一枚絵で統一されてお
り、そのすべてに電柱が登場している。代表曲は『サイノウサンプラー』『独りん
ぼエンヴィー』『曖昧劣情Lover』など。
脚本家。ライター業や映像制作などを経て、現在は舞台の脚本を中心に活動している。舞台版『ココロ』の脚本・演出を担当し、ドワンゴ主催のニコニコミュージカル『ニコニコ東方見聞録』にも参加。コミカルでテンポのよい舞台に定評がある。ノベル版『ココロ』では舞台の脚本をベースに新たな物語を書き下ろした。