「次はインドの時代」と言われる理由
渡辺 全米でトップを争う公立高校のディベートチームを取材したときにも、同様の現象がありました。上位を占めている生徒の名前は、典型的なWASPではなく、インド系や中国系なんですよ。 その他の分野でもインド系の方がすごくがんばっていますよね。ボストンの企業でもそうなんです。今注目されているところの共同経営者にはインド系の方が多いです。
冷泉 がんばってますよね。インド系は「20×20まで暗記していて数学が得意」とよく言われていますが、それだけではなくて、意欲の高い若者が多いですね。近所の高校なんて、生徒会長の選挙を勝ち抜いて卒業式で代表スピーチするのはいつもインド系ですよ。
渡辺 シリコンバレーで働く中国系アメリカ人の方と話しているとき、「日本はダメになってきているね。すっかりリニューアルするしかない」って言われました。でも、彼は「中国もダメだ」とも言っていました。「次はインドの時代だ」と。なぜかというと、インド人の人たちというのは政治にも入り込んでるし、ITにも入り込んでるし、それから、金融にも入り込んでるし…… 。
冷泉 お医者さんもたくさんいますよね。
渡辺 アメリカのアジア系移民についての調査*を見ると、平均世帯年収(中央値)が一番高いのがインド系移民で、が88000ドル(約1千万円)なんです。日系移民は、アジア系全体の平均66000ドルより低い63900ドルです。教育レベルでも、インド系移民がトップです。そして、インド系企業は祖国から技術者を呼び寄せて就職先も増やしていますね。アメリカでこういうことが起こっているのを、たぶん日本にいる方は知らないでしょうね。
*The Pew Research “The Rise of Asian Americans” オリジナル2012、update版2013年。 http://www.pewsocialtrends.org/2012/06/19/the-ris...
冷泉 やっぱり数学が鍵じゃないでしょうか? 日本の場合は「ゆとり教育」で数学のカリキュラムを易しくしたわけで。今は戻そうとしてますが、昔に比べればまだまだ易しいです。それに、「私立文系志望」という高校生の存在というのも問題ですよね。つまり高校に進学して少しして「自分は私立文系だ」と決めてしまうと、以降は数学を真剣に学ぶのを止めてしまうんです。「日本の数学力の裾野は広い」とよく言われますが、微積分の基本を理解している人、統計学の基本を勉強した人の比率は、そんなに高くないんじゃないでしょうか。後は英語ですね。翻訳メソッドと文法の穴埋めばかりの英語教育では、世界では通用しないですから。
渡辺 それに関連したことですが、アメリカに留学するアジア人は多いのに、日本人留学生がすごく減っていますよね。「日本人は外に出なくても幸せだからそれでいいんじゃないか」というツイートを見かけたことがあるのですが、そうなんでしょうか?
日本は日本だけで生きていけませんよね。 外国と関わりたくなくても、関わっていかなくては生き延びることはできません。 先ほども書きましたが、アメリカの高校のディベートチームで活躍しているのは中国人とインド人です。ディベート力が、将来のビジネス上の交渉に必要なスキルだとわかっているんですよね。
冷泉 ああ、なるほどね。彼らはゲームのやり方をわかっていますよね、本当に。
日本社会が引きずり続ける「アジアのNo.1」のプライド
渡辺 そうやって育った彼らと、国際的な視点から隔離されて育った日本人が、国際社会でやりとりしなければならない時代の怖さを感じています。日本語のソーシャルメディアを眺めていると、バブル最盛期の日本にあった「アジアのNo.1」というプライドを悪い意味で引きずっている人が多いような気がします。
冷泉 日本の国全体にそんな空気があると思います。「こんなはずじゃない」とか「我々は本当はこれだけもらえる権利がある」とか、みんな思っているような。実はそうじゃなくって、今は、もう一回コツコツやらないといけない時代なのに。
渡辺 ですね。現状に文句を言うだけではよくならないから、「国や親をあてにせずに、自分でなんとかしなくちゃならない」と思うことが大切ですよね。
冷泉 企業でもそうですね。これはすごく大きなテーマなのですが、女性より男性の方がえらい、平社員より社長さんが偉いという権威主義が、日本社会にはいまだ根強いと思います。「社長さんは若い人の意見を簡単に聞いちゃいけない、そんなことをしたらしめしがつかない」、といったヒエラルキーにもとづいた不平等が厳としてある。
渡辺 私は93年に日本を離れて、その後ずいぶん変わったかと思ったのですが、そうではないのですか。
冷泉 残念ながら、みんなそのヒエラルキーに甘えて壊そうとしないんです。ヒエラルキーシステムに過去の栄光が重なっちゃっていて、それにぶらさがっていればなんとかなるし、今ちょっと停滞していても、それを取り戻せばなんとかなると思っている人が結構いるからです。彼らは、「変えると日本の魂を失う」とか、「アメリカみたいな個人主義社会になる」とか反論します。それが間違いだと思うんです。
渡辺 問題を指摘すると「あなたはアメリカかぶれだ」とよく言われますよね。ひどい場合には「反日だ」とか「アメリカのほうがひどい国だ」といった「日本対アメリカ」の闘いのようになってしまいます。今回の対談も、アメリカを上げて日本を下げている、というふうに思われるかもしれません。[RH1] でも、冷泉さんや私が言いたいのはそういうことではありませんよね。
冷泉 日本には日本のいいところもあるんだけど、それがやっぱり行き詰まっているから、少なくとも教育の場では、そういうことをちゃんとやっていかないといけないという話ですよね。
「日本でしか通用しないこと」と「国際的にも通用すること」を見極める
渡辺 アメリカの教育の表面的なところをマネろということじゃないんですよね。
たとえば、アメリカは経済だけでなく教育でも地域での格差が大きいのですが、日本ではどこに住んでいても同じ教育を受けることができます。それは日本の教育のとても素晴らしい部分です。冷泉さんの『アイビーリーグの入り方』も、そうした前提で読む本だと思います。
アメリカの将来を背負っていく人々はこういう教育を受けているけれど、日本の将来を背負っていく若者たちの教育は今のままで本当にいいの、という問いかけですよね。
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