©ヤスダスズヒト
そうまでしてコミュニケーションをとる必要があるのか?
—— コミュニケーションの「技術」の具体例がわかったところで、ひとつ疑問が湧いてきました。
吉田尚記(以下、吉田) なんでしょう?
—— 結局、吉田さんの本を読んだとしても、コミュニケーション能力の上達には実践が必要ということですよね。そうまでして「コミュニケーションをとって気持ちよくなる」必要性があるんでしょうか?
吉田 それは絶対にあります。なぜならば、コミュニケーションは人間の基本欲求であって、本当は誰しもがしたいことだからです。
これには科学的根拠もあるんです。ある研究結果によれば、霊長類の大脳新皮質の厚さと、群れの大きさと、群れの個体が他の個体に毛繕いをする時間の3つは、その数字が比例しているともいわれているんです。
—— どういうことでしょうか?
吉田 ロビン・ダンバーという人類学者の説なんですが、毛繕いに時間を割くサルは大脳皮質が厚く、群れの個体数も多くなる。お互いに毛繕いすることは、ヒトでいえば、コミュニケーションです。コミュニケーションをする群れほど繁栄するんです。
—— なるほど人間は毛繕いしないです。でも、毛繕いの代わりとして、人間はコミュニケーションをとっている?
吉田 そうです! だからコミュニケーションは単純に、生理的に気持ちいいものなんです。だから、誰かと会話していない時間が長く続くと、だんだん死にたくなりませんか?
—— 会話がうまくいかなくて死にたい時もありますけど(笑)。たしかに人と会わずに引きこもっていると気が滅入るというのはありますね。
吉田 サルの毛繕いと同じで、人間は、会話する、コミュニケーションすること自体が、意味もなく気持ちよく感じるんです。本来、コミュニケーションに「意味」は必要ないんです。ただ、会話で使う言葉には意味を含められることが発見され、後から意味も伝えるようになった。一般的に考えられているのとは順番が逆なんです。
—— 会話をするだけで人間は気持ちいい。だから、会話というコミュニケーションをよりうまく成立させることができればもっと気持ちいいし、それを基本的に欲していると。
吉田 そうです。ゴシップがなくならないのもそれが理由です。だってゴシップって、別に会話の内容にはさして意味がないと思いませんか? 芸能人の熱愛や逮捕の報道って、ファンはともかく、世間の大多数にとっては関係のないことですよね。
—— たしかに。でもファン以外でも、あれこれ言いたくなりますよね。
吉田 それは会話そのものが、重要な情報を伝えるためにあるものではなくて、そもそもゴシップを伝えるためにあるからなんです。だから、どんな民族だろうが、どんな文化背景だろうが、ウワサ話はなくならない。
—— 長生きしたいならウワサ話をしろってことですね(笑)。
言葉で気持ちは伝わらない?
吉田 さっき、会話の中身に本来意味は必要ないという話をしたじゃないですか。これと併せて覚えておいてほしいのは、そもそもコミュニケーションによって何かを「伝える」ことは、基本的に無理だということです。
—— どういうことですか? 副次的であるとしても、人間はコミュニケーションを通じて物事を伝達しているという話ではないんですか?
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