やりたいことはなんですか?
「好きなこと、もっとやりがいのあることを仕事にしたいと思ってる」
コウスケの言葉が美沙の脳裏に勝手にリフレインをする。
それにしても、こんなにリラックスのできない休憩時間は入社以来初めてであった。午後一からふたたび面談になるとは……息抜きどころか息が詰まりっぱなしのランチだったが、美沙は最後に得意のたまご焼き(今日は甘目の方だ)をパクつき、いつものジンクスを胸で唱えた。「ご飯を食べると元気になる!」
至ってシンプルかつ、ジンクスなどと大それた呼称をするのはおかしなものだが、美沙にとってのそれは、いつだって特効薬であった。何事にもジンクス(意味づけ)にするのが美沙だった。
・空を見上げると、気持ちも晴れやかになる(雨でも、嵐であっても、だ)
・ラジオ体操をすると、血の巡りが良くなり、笑顔の質が上がる
そして、今度はあらためて胸で宣言をした。
「やらない後悔より、やって後悔をした方がいいに決まっている。もうコウスケに依存はしない。『自分の好き』を仕事にして、自立をして生きていこう!」と。
*
「好きなことなら諦めずに頑張れる、とのことでしたね。では、浅井さんの好きなことは何ですか?」
「いま探しているところです」
「好きなことがわからないのですね?」
「そう簡単に好きなことなど、わからないものではないでしょうか?」
「そうですか? 『好きなことを仕事にしたい』と願う人は、自分の好きなことをわかっていると思いますが」
「いや……訂正します。好きなことならわかります。でも、仕事に結び付くような好きなことがわからないんです」