人間の脳が飛躍的に拡張された21世紀
石川善樹(以下、石川) 最近よく思うのが、つながりの本質が21世紀になってから変わってきているということです。21世紀になってから、人の脳の拡張が起こってきているんではないかと。約50万年前に人間の脳の容量が倍くらいになっているんですけど、それくらいの衝撃が21世紀にも起こっているなと思っていて。
—— どういうことですか?
石川 数年前の『サイエンス』に、「脳が記憶にアクセスするときに、Googleを記憶の貯蔵場所として認識し始めた」という主旨の論文が掲載されました。それって、記憶容量が爆発的に拡大したということなんですよ。
※グーグル効果 ネットが変える脳 | 日経サイエンス
—— 記憶を脳に蓄える必要すらなくなった、と。
石川 そうです。人間が何人とつながれるかというのは、脳全体に占める大脳新皮質の割合で決まります。現状では、人間ってだいたい150人くらいがマックスなんですね。
—— ダンバー数という言葉を聞いたことがあります。
石川 そう、それです。150人がマックスだったのが、FacebookなどSNSの登場でつながることのできる人数が爆発的に増えてしまいました。それに脳がどう対処するのかは、実はまだよくわかっていないんです。人類が今まで経験してこなかったことですから。
—— でも、なんとなくつながれてしまっていますよね。
石川 150人が限界という処理能力は変わっていないけれど、Facebookなどのおかげで脳が拡張したとも考えられます。
—— とてもおもしろい話ですね。
石川 だから、一歩も二歩も進化した脳を人類はもう手に入れているんです。こういう時代に誰と本当につながるのかという問いは、今を生きる僕たちが考えていかなければなりません。今までせいぜい150人くらいの世界でつながりを考えていけばよかったのが、今は1000人、2000人のつながりのなかで、それを考えていく必要が出てきました。
—— 中編で、裁量権の話、自分で物事をコントロールしている感覚があるのが健康にとって重要だという話がありました。しかし、最近ではスマートフォンのアプリで、いろんなことがオススメされます。ある意味、自分でコントロールしている感覚が薄まってきているようにも思うのですが。
石川 二極化していくと思います。コンピューターに使われる人と、コンピューターを使いこなす人。つまり、情報に埋もれてしまう人と、情報を主体的に使いこなす人です。進化した人類2.0として生き始める人と、そうでない人がわかれると思うんですよ。
—— 恐ろしい話ですね。
石川 コンピューターによって人間の認知能力が拡張している。これはつまりガンダムやエヴァンゲリオンに乗るみたいなものですよね。大きな力をうまく動かせる人と、そうでない人がわかれてしまうような。
カフェで聞いた女性同士の衝撃的な会話
—— 本著のなかでは、女性のほうがつながりを作るのがうまいと指摘されていました。それが女性のほうが長生きする一つの要因になっている可能性があると。地域の集まりでも女性のほうが主体的に動いて、男性はポツンと隅に立っている状況があるとよく言われています。
石川 よく女性は目的がないのに友だちと長くおしゃべりができると言われています。研究者の視点から言うと、有限ゲームと無限ゲームというものがあって、男の人は勝ち負けがある有限ゲームが好きなんですね。はじまりと終わりがあって、ある目的に沿って組まれたチームのなかで最終的には勝負を決めるという。
一方、女性は無限ゲームが好きだと言われていて。はじまりもなければ終わりもないし、勝ち負けも特にありません。
—— 友だちとおしゃべりをするのは無限ゲームですよね。
石川 そうですね! つまり、女性は続けることが得意なんです。だから、つながりを作ることがうまい。一方、有限ゲームだと勝ち負けが決まったら終わりなので、つながりが保ちにくいと言えます。
—— チームを作ったあとのメンテナンスも重要になりそうです。男性と比べると、女性は、プレゼントをあげたりするのも得意なような気がします。
石川 そうですね。男性の感覚だと友だちの誕生日会なんて、何だか気持ち悪くて、開かないですよね(笑)。でも、女性が友だち同士で誕生日を開き合うのは、無限ゲームの一つだと言えそうです。あと、女性は男性より、表情や仕草に現れる感情のサインを見つけるのがうまいと言われています。感情ベースのコミュニケーションがうまいと言っていいかもしれません。
—— わかる気がします。
石川 この前、渋谷のカフェに一人でいたのですが、女性同士の会話を横で聞いていて、ビックリしたことがありました。