オタクは日本の希望である
岸見一郎(以下、岸見) これは最初にお聞きする話だったかもしれませんが、なぜ小林監督はオタクをテーマにした映画を撮ろうと思われたのですか。
小林啓一(以下、小林) 本当によくよく考えてみると、前回岸見先生がおっしゃった「羨ましい」っていうのが原点だったように思います。何やらエネルギッシュで周りのこととかあまり考えず、自分の好きなことを突き詰めている姿が、すごく力強いものに感じられたんです。で、大げさな言い方かもしれませんけど、それって日本人が忘れかけているもののような気がして。そういう部分を肯定的に撮れればいいなと。
岸見 なるほど。
小林 あとは、オタクの持っているジョークのセンスに惹かれましたね。自虐的に自分や仲間のことを面白い言葉で表すんですよ。映画のなかでもぼんちゃんの親友の呼び名は「肉便器ちゃん」ですから(笑)。ネット上での罵り合いも興味深いです。そこにはちょっと愛情がある。たとえば2ちゃんねるの住人が「彼女が◯◯で悩んでるんだよね」といった発言をすると、次の人が「でも、彼女いないよね」と返す(笑)。で「キター!」みたいな。これは自虐的ではないですけど、ネガティブなようで、わりと笑いにちゃんと持っていってるわけです。
岸見 カウンセラーの立場として言うと、深刻に悩んでいる人がカウンセリングに来られるのですが、その深刻さをいかに落としていくかが我々の仕事。だから、深刻な悩みを抱えてきた人が笑うというのはすごいことです。自分の生き方を少し距離をおいて余裕を持って見られるようになると笑えるわけです。それはカウンセリングの進捗に従って少しずつ出てくる。「今日はあの人、笑ったな」というのが回復の兆候なのです。
小林 そうなんですか。
岸見 私も『ぼんとリンちゃん』を観てオタクの人たちのユーモアのセンスに学びたいと思いました。ぼんちゃんは、そういう意味でもすごいですよね。リンちゃんとのやり取りを聞いていると、「あぁ、あんなふうに話をすれば深刻さを落とせるんだ」と勉強になりました(笑)。自分を客観視できているということかもしれません。