前回のコラムで、マツダの新型デミオの事例を挙げながら、伝統的なマーケティングの手法であるSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)ではなく、PED(ペルソナ・体験フロー・価値デザイン)という3つのステップでマーケティングの骨格を決める企業が出てきている、という話をしました。
このコラムに関しては、知り合いを含めたマーケターやそれ以外の方々からもいろいろなご意見をもらいました。「その通りだ」といった肯定的な意見もありましたが、中でも一番多かったのは「そうは言っても、トップ企業じゃなくてニッチメーカーだからできることでしょう」というものでした。
確かに、これまでのマーケティングに馴染んできた人たちからすれば、特に大きな企業の中で、STPを明らかにしないマーケティングの企画案が通るなどということは、「あり得ない」と感じられるのでしょう。
実際、私がマツダの方のお話をうかがったとき、周囲には他の大手メーカーのマーケティングや商品開発の担当者の方々がいたのですが、その人たちも「そんな(マツダのような)企画案は、うちの役員に言っても絶対通らない」と絶句していました。
ネットが変えた、STPマーケの「大きな初期投資」という前提
しかし、それを見て「PEDに基づくマーケティングは一部のニッチメーカーでしか通用しない」と結論を出すのは、ちょっと違うのではないかと私は思っています。
大手メーカーの人たちにとってPEDが受け入れづらいと感じる理由は、「その商品がいったいどのくらいの事業規模になるのか、企画を見ただけではさっぱり分からないから」です。事業規模が予測できなければ、それに必要な生産設備や広告宣伝といった投資の額も決裁できません。「どのくらい売れるのかは分かりません、だけどこういう商品こそが欲しかったと言ってくれるお客さんが絶対にいるはずなので、やらせてください」という企画案は、それにいったいいくらぐらいカネがかかるのかが読めないので、認められないのです。
とはいえ、1つの新製品を出すのにそんなにカネがかかるものなのでしょうか?
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