このコラムでは2年前から折にふれて、私が会長を務めていた公立小学校のPTAのさまざまなエピソードをご紹介してきました。
私がPTA会長をやっていると話すと、よくいろいろな人から「本業もお忙しそうなのに物好きなんですね」と言われるのですが、私自身は全然「物好き」でやっているつもりはないのです。むしろ、非常に実利的な側面からPTA会長という仕事を引き受けたと思っていました。
ただ、その「実利」というのは、あまり堂々と公言すると嫌な顔をする人も多いだろうと思って、今まで口にしてきませんでした。このコラム連載の4回目(「小学校のワークショップ大会で見えた『親が学ぶ』姿勢の大切さ」)でも、PTA会長になったきっかけを『地域の顔役デビューしたかったからとかそういうのではなく、PTAにビジネスの世界の「マネジメント」の手法を活用できるかどうか、やってみたかった』などと、わざと理由をぼやかして語っていたのは、そのためです。
しかし、小学校のPTA会長ももう今春に退任したことですし、ちょうど同時期に10年越しの自分なりの「実証実験」が結果を出せたりもしたので、私の本当の動機について、少しお話ししたいと思います。
ファミリー層は「教育環境」で住宅を選ぶ
インターネット上で1〜2年おきに繰り返される論争バトルのテーマの1つに、「家は賃貸が得か、持ち家が得か」というものがあります。
結論としては「本人がそれで良いなら、どっちでも良いじゃん」というところで落ち着くのが通例なのですが、10年前にこの論争に私も参加して長大なコラムを書いたことがあります。「10年後のマンション価格」というタイトルのコラムがそれです。
このコラムで私は、「ファミリー層にとって購入してでも住みたいマンションの選択基準とは、教育環境の充実した地域にあるかどうか」であると主張しました。ちょうど当時(2004年)、小泉政権下で義務教育国庫負担金(※)を廃止するかどうかといった議論が行われている最中でもあったことから、「今後は義務教育の段階で同じ公立学校でも自治体によって大きな格差が生まれる。したがって、公立小中学校への手厚い財政措置をとっている自治体のファミリー向けマンションは、時間が経っても価格が下がりにくいはず」と述べました。
※公立小中学校の教職員の給与を、国が補助する制度。
結果としては義務教育国庫負担金は廃止されませんでしたが、その後10年間で少子高齢化はさらに進み、今や全国の公立小中学校の半分近くは1学年1学級しかない「小規模校」になってしまいました。つまり、自治体ごとの格差よりも学校ごとの格差のほうが先に表面化してきたわけです。
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