「カッコいい」が嘲笑される時代
いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。
バーでこんなシーンをよく見かけます。
僕がワインのボトルを開けて、「テイスティングをお願いできますか」と伝えると、「雨に濡れた子犬とか夏の草原の香りとかってやつですよね」と誰かが言って、みんなで大笑いというあのシーンです。
お気持ちはすごくわかります。ワインのテイスティングなんて、よっぽど詳しくないとわからないから、なんだか照れくさくって恥ずかしいんですよね。それで、ひとまず笑っておくと緊張した場はほぐれます。
さて、最近思うのは、僕が働いているバーのような場所でお酒のウンチクを語ったり、背筋をのばして乱れずに飲む人が本当にいなくなったなあってことです。
僕がバーテンダー修行を始めた20年前にはまだ結構いたんです。「あのお客さまが来たら、すごく難しいクラシックなカクテルを注文するから恐ろしいなあ」とか「あの方はシングルモルトが本当に好きで、現地まで行って買い集めたりしているから中途半端なウイスキーのお話はできないんだよなあ」とか「あの女性、飲み方が美しいなあ。ダラダラ恋愛の話とか仕事の話とかしないで、サッと飲んでパッと支払いをすませて帰るのってカッコいいなあ」とかって方が必ずいたんです。
でも、最近は本当にいないんですよね。
おいしいコーヒーやお酒にこだわり、行きつけの店を持ち、そこの常連になり、決して乱れた感じにはならず、自分の時間を楽しんで、そしてちょっと早めに席を立つ。そして周りの若いお客さまから「大人になったらああいう風に飲みたいなあ」と思わせるスタイルの人です。
どういうわけだか、いつの間にかそういうことを感じさせる人って嘲笑の対象になってしまったんですよね。
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