接待しようと試みたこともある。でも、できなかった
川上量生(以下、川上) 今日は、企画とエンジニアについての話をしようかと思っていたんですけど、ちょっと、「オヤジキラー」について話していいですか。
—— えっ、オヤジキラーですか(笑)?
川上 なんか、ネットなんかを見てると、僕のことをオヤジキラーだと思っている人が多いらしいんですよ。思われること自体は別にどうでもいいんですけど、いろいろ間違っているんですよね。
—— KADOKAWAとの統合に関連して、そういうニュアンスで書かれているのは、見たことがあります。
川上 そもそもみんなが想像しているオヤジキラーとはなんなのか。まあ、ぼくもオヤジといっていい年なので、ジジ殺しがより適切な表現でしょう。まあ、オヤジキラーだかジジ殺しというものがいるとして、それはどういうものなのか。みんな漠然としたイメージしか持ってないまま、その言葉を使ってるんじゃないでしょうか。その定義をきちんとしてもらいたいんですよね。
—— は、はい(笑)。
川上 そもそもオヤジキラーっていうのは、人種なのか能力なのか。
—— はい。
川上 僕のことをオヤジキラーと言っている人って、「川上みたいなオヤジキラーの能力がほしい」と呟いてたりする。つまり、オヤジキラーのことを能力だと思ってるわけですよね。じゃあ、オヤジキラーとしての能力ってなんなのか。それをひとまず、「権力を持っている年配の人に気に入られる能力」だと定義しましょう。
—— 厳密ですね。
川上 はい。意識して人に気に入られる力ということについて、きっとみんなが想像しているのは、おべんちゃらを言うとか、心にもないことを言って機嫌をとるとか、そういう能力だと思うんですよ。だから、オヤジキラーって言葉にはですね、「うまく取り入りやがって」っていう嫉妬心が付随してるんです。
—— ああ。たしかにそうかもしれません。
川上 でね、僕はその能力、まったくないんですよ(笑)。おべんちゃらも言えないし、心にもないこと言って褒めたりもできない。基本的にウソが言えないし。だから僕、接待しないんです。これは、ポリシーとかじゃなくて、単純に、できないからです。接待っていうのは、経済合理性があることも多いんだと思いますよ。接待で仲良くなって、仕事がうまくいくならするべきです。
—— そうですね。
川上 僕もね、社長になってから接待しようと試みたことが何回かあります。でも僕が接待しても、全然相手は気分が良くならない(笑)。接待能力が根本的に欠けてるから、ここで勝負しても仕方ないなと思いました。
—— へえ、川上さんも接待してみようと思うことがあったんですね。意外です。
川上 今でもときどきありますよ。「ちょっと今日、がんばってみようかな」って思うんだけど、大体うまくいきません。
—— そういうとき、「今日はおれ、ダメだったな」とかって落ち込んだりするんですか?
川上 いやあ、落ち込みますよね。「やっぱりダメかあ」と思いますよ。
—— じゃあ、オヤジでも女性でもなんでもいいんですけど、川上さんが自発的に「この人と仲良くしたい」と思ったときは、どうしてるんですか?
川上 うーん、僕は基本的に受け身ですよね。
—— 積極的に話しかけたりはしない。
川上 近づくくらいですかね。
—— 物理的に(笑)。
川上 そう(笑)。そして、向こうから声かけてくれないかな、って期待する。
—— 完全にオタクの行動ですよね(笑)。
川上 まさしくそうです。だから、僕は気に入られようとして気に入られるってことはないんです。そういう汎用的な能力はない。じゃあみんなはなぜ僕をオヤジキラーとみなしているのか。それは、鈴木敏夫さんや角川歴彦さんから気に入られているように見えるという、きわめて少ない事例から、きっと汎用的な能力があると推測してるだけですよね。
—— そのケース、オヤジ側もずいぶん特殊なオヤジですよね。
川上 そうなんですよ。かなり特殊です。この二人を、おだてて、機嫌よくして、仲良くなれると思います?
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