八月十七日
昨日までの雨が嘘のように晴れ渡った今日。僕らは駅で待ち合わせをしていた。
約束した時刻は十六時。少し早めに駅に到着した僕は、落ち着かない気分で今日乗る予定の交通機関の確認をしていた。道に迷ったりして、格好悪いところは見せられない。……ここの駅で降りて、ホームを移動して私鉄に乗り換えて。そこから五駅先の問石口駅で降りる。そこで山を越えて隣町に行くバスが出ているから、それに乗って山頂付近のバス停で降りれば、由希をあまり歩かせずに目的地に着きそうだ。
バスの最終は二十一時三十分。遅くともその前のバスには乗って帰りたい。あのお父さんを心配させてしまうだろうから。それにしてもよくOKしてくれたものだと思う。いくら日帰りだからと言って、子どもたちだけで遠出するわけだし……。
そうやっていろいろと考えていると、目の前のロータリーに車が止まった。
「ごめんなさい。お待たせ」
車の助手席から由希が降りて来た。
運転席の窓が下って、お父さんの顔が覗いた。そして、今から出かけようとしている娘に、父親らしく優しい声をかける。
「気を付けて行っておいで。何かあったらすぐに電話するように」
「うん。大丈夫だから」
由希がはっきりと返事をする。
「水上君、この子をよろしく頼む」
由希のお父さんが真剣な眼差しを僕に向ける。その気持ちに応えるように、僕も真剣に答えた。
「はい、頑張ります」
「ふふふっ、頑張るって何を?」
その様子を見ていた由希が、面白いものでも見たというように笑っている。
「頑張ってエスコートするってことだよ」
「じゃあ、エスコートよろしくお願いします」
珍しく由希がはしゃいでいるように見える。
「それでは、由希さんをちょっとお借りします」
お父さんに頭を下げる。
「うん。気を付けていってらっしゃい」
お父さんは僕たちに微笑みかけたあと、窓を開けたまま車を走らせた。
「ねぇ、河村君は?」
「智史から朝、電話があってさ。いきなり用事ができたから行けないって言われたんだよ」
「へぇ、そう。残念だったなぁ」
彼女はそう言いながらも、そこまで残念そうな表情ではない。
「かなり残念がってたよ。あいつから言い出したことだからな。でも一回延期になってるから行けるときに行って来いって智史に言われてさ」
由希からすると、智史が土壇場で約束を
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