八月九日
昨日は藤沢さんのことを考えていたらあまり眠れなかった。智史が余計なことを言うからだと
さすがに今から昼間に智史ん
少し早く公園に着くと、そこにはすでに藤沢さんがいて、智史はまだ来ていなかった。
「藤沢さん、こんばんは」
彼女はこちらを振り向くと、いつものように軽く会釈をした。
「智史はまだ来てないみたいだね。具合は大丈夫なの?」
「ちょっと体調崩しちゃった……。でももう大丈夫」
「そっか。よかった」
「なんだかすごい元気になった気がする」
彼女は
「そうそう、昨日ね。藤沢さんのお父さんが来たよ」
「そうらしいね。何か変なこと言ってなかった?」
「最近うちの娘が楽しそうにしてるのが嬉しいって言ってた」
「そんなこと言ってたの?」
藤沢さんがちょっと恥ずかしそうに顎を引く。その姿が可愛くて、自分の頬が緩むのを感じた。
「いいお父さんだね」
「うん、そう思う。でも、うちはお母さんがいなくて、お父さんと二人暮らしだから迷惑かけてばっかりで申し訳なくて」
「そういう話もちょっと聞いた。お父さん少し心配してたよ」
「えっ? 何だって?」
「……優しい子だから、周りにも自分にも気を遣ってるって」
僕は迷ったけど、藤沢さんのお父さんが昨日話してくれた内容を伝えた。すると、彼女は何か考え込むような素振りを見せた。
「お父さん、たまにすごく悲しそうに見えるときがあるんだ。そういうときはきっと、亡くなったお母さんのことを思い出してたり、私のことを気にかけてるんだろうなって。お父さんも辛いのはわかってるから、心配かけたくないんだ……」
肩を落とす彼女に対して、僕は何か言わなきゃいけないと感じて、口を開く。
「自分が言うのも変な話だけどさ。そうやって、お互いを思いやれる関係って、すごくいいことなんじゃないかな」
「……ありがとう。水上君って優しいね」
笑顔交じりに言う彼女の言葉に、気持ちが少し軽くなる。
「そんなことないよ」
そしてやってくる沈黙の時。
思えば藤沢さんと二人っきりで話す、ということはこれが初めてだった。
ああ、そうか。これまでは、こういうときに智史が話してくれていたんだ。なんだかんだであいつはすごいやつなんだなと思い知らされた。
昨日の智史の話を思い出す。この状況で名前を呼び捨てにするなんてできないだろう……。あいつのニヤけた顔が頭に浮かぶ。
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