米国ボストン美術館は、19世紀に開館した由緒あるミュージアムです。幅広いコレクションを有していますが、なかでも際立っているのが日本美術。総点数は9万点に上るといいますから相当のものですね。そのなかで、浮世絵はなんと5万点もあるそうですよ。
大充実のボストン美術館浮世絵コレクションから、葛飾北斎の作品を選りすぐって「里帰り」させようという展覧会が開催されています。東京上野、上野の森美術館での「ボストン美術館浮世絵名品展 北斎」です。
北斎といえば、江戸時代に盛んにつくられた浮世絵の世界における、最大のスターのひとりですね。1760年に江戸で生まれ、90歳まで生きて生涯、絵を描きまくりました。残された膨大な作品は、国内はもとより印象派ら世界中の美術家、愛好家に注目され、評価が高まっていきます。いまや、世界の美術史に日本人が載るとしたら、真っ先に名が挙がるのは北斎でしょう。
ボストン美術餡にも北斎はたっぷりあります。そこから140点あまりが日本に運ばれてきました。展示は初期作から晩年作まで、北斎の画業を網羅するかたちで展開されます。豊富なコレクションから選んでいるからこそできる業ですね。
会場を巡っていくと、北斎の凄みがこちらの身に沁み込んでくるような感じがいたしますよ。驚くべきは、その旺盛な好奇心と探究心、手業の豊富さです。次から次へと異なる手法の作品が出てくるのです。
《浮絵 源氏十二段之図》
たとえば《新版浮絵 浦島龍宮入之図》は、若いころに制作された浮世絵版画ですが、西洋由来の遠近法構図をはっきりと浮世絵のなかに取り入れているのですね。
また、《ぎやうとくしほはまよりのぼとのひかたをのぞむ》は、題材にしているのが東京の海辺である行徳であるのに、洋風の雰囲気を滲ませてあります。明暗が強いところなどが、すこし西洋っぽいとおもいませんか? おもしろいのは画面の右上です。ひらがなをわざと横書きにして記し、あたかもアルファベットで何か書いてあるようにしているのですね。おもいきり和風の素材をつかって、舶来ものっぽさを演出してみせたのですね。
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