※本連載には、刺激的な内容・画像などがふくまれています。職場や公共の空間での閲覧にはご注意ください。
原初、BLには乳首は存在していなかった?
金田淳子(以下、金田) 「雄っぱい」、とくに乳首が、その活躍ぶりに反して軽視されてきたのではないか、という話をしてきました。ここからは、男の身体がきわめて熱心に描かれるジャンルであるボーイズラブ作品において、乳首がどう描かれてきたのかをご紹介していきます。
二村ヒトシ(以下、二村) 前回のアナル会議でボーイズラブにおける「穴」表現を取り上げたときには、穴不在の暗黒時代を経て「やおい穴」が発見されたというお話がありましたね。
金田 はい、実は乳首も、70年代の終わりや80年代ごろにはそれほど描かれていないんですよね。まず、BL神でありJUNE(※1)神、こと栗本薫先生はどうやら乳首にはあまり興味がなかったようで。 ※1 主に女性が女性に向けて描く、男性同性愛を主体としたオリジナル作品を指す。実在の雑誌名をもとにして生まれた言葉で、「ボーイズラブ」という言葉が普及する以前は男性同性愛作品を指す言葉として広く使われていた。
岡田育(以下、岡田) おお、栗本先生が。そういえば、「穴」への破瓜的な執着ばかりが印象深く、乳首を愛撫されるようなシーンには心当たりがないですね。栗本先生はSMっぽいのが好きだからでしょうか。
金田 でも、栗本先生が中島梓名義で出された『美少年学入門』の表紙は、竹宮惠子先生が描いた、チクニー(※2)している美少年なんですよ。 ※2 乳首をいじってオナニーをすること。
二村 おぉ、はさんでますね。指と指の間に。
金田 この本を買うとき、私も若かったのですっごい恥ずかしかったんだけど、乳首の部分に帯がついていたので事なきをえました。
岡田 帯で隠す、大人の配慮ですね……。まぁ美少年の側からしてみれば「金も払わずに僕のチクニーを見られると思うなよ」ってことですかね。
金田 それに対して、同じJUNE神でありながら、きちんと乳首に向かい、乳首の意味を活写した方がいます。それが萩尾望都先生。萩尾先生の作品に『残酷な神が支配する』というマンガがあるんです。これは義理の父グレッグに主人公のジェルミが性的虐待を受けるという大変悲しい話なんですが、ジェルミが初めて犯されたあとのモノローグにこんなセリフがある。