BAPA第一期生卒業展示後、卒業式が行われました。
最初は、卒業証書の授与から。校長の伊藤直樹さんと朴正義さんが、各チームに交互に渡していきます。各作品にちなんだコメントも飛び出し、笑いの絶えない授与式となりました。
次は表彰式です。
優秀賞
チームD「SHIBUYA INVADERS」
伊藤直樹(以下、伊藤) 「とても展示映えする作品でした。参加者の満足度が高いゲームになっていたと思います。時間のないなか、完成度の高い作品に仕上げてくれましたね。BAPA展を盛り上げてくれてありがとう」
チームB「Shibuya Sweet Lesson」
朴正義(以下、朴) 「これは、最後のオチがなかったら、照れくさいだけでどうしていいかわからない作品です(笑)。でも、最後に発音を採点して、言ったセリフにエコーをかけて流すことで、エンターテインメントに昇華したところがうまい。体験した人を、いい感じで『スター』にしてあげるところまで着地できたのがよかったですね」
オーディエンス賞
チームE「MASS RHYTHM」
伊藤 「1日目、2日目ともに、アンケートの『良かったものを選んでください』という項目の得票数としてはダントツでした。僕ら審査員の評価でも、ベスト3には入っていたんです。これは、もう最初のつかみとして、スクランブル交差点のライブ映像から音とグラフィックをつくりだすところで、おどろきがありますよね。デザインも技術力もすばらしかった。総合的なスコアが高いのは当然だと思います」
東急電鉄賞
チームC「SHIBUYALIZER」
東京急行電鉄株式会社 大友教央さん「東急電鉄でBAPAのプロジェクトに関わっているものが3人いるので、その3人の意見を集約して決定しました。我々としては、今回のお題であった『外国人に『Fantastic!SHIBUYA!』と言ってもらう作品』というテーマに沿っているか、渋谷じゃないと作品として成り立たないものはどれか、という視点で選ばせていただきました」
東京急行電鉄株式会社 磯辺陽介さん「SHIBUYALIZERは、サロンパスのネオン看板やQFRONTなど、渋谷を想起させるイメージをうまくつかっています。それをリズムに合わせて点滅させて遊ぶという行為が、外国人にとっておもしろいのではないかと思いました」
奨励賞
チームA「PARENTAL SWITCHING」
伊藤 「このチームは検証の鬼でした。何度も検証しては悩んで、見ているこっちがイライラしてしまうほど(笑)。目の前にいいアイデアが転がっているのにずっと悩んでいたんです。それで、渋谷の街を実際に見に行くうちに、子どもに見せてはいけないものがあるという視点から、マネキンの目を隠すというギミックを思いついた。これ自体はおもしろいんですけど、惜しいんですよ。朴さんも私も実は、この作品に一番可能性を感じています。どの案を磨いていきたいかと聞かれたら、これを推しますね。一番化ける可能性がある作品ということで、奨励賞をあげようと思いました」
表彰式のあとは、BAPAの第1回から生徒たちを見守り、メンターの役割も果たしていたバスキュールのクリエイティブ・ディレクター、馬場鑑平さんから卒業生へのメッセージがありました。
馬場鑑平 「卒業される皆さんに2つのことをお伝えしたいと思って、話します。1つ目は、今回さんざん経験されたと思うのですが、アイデアの検討とフィージビリティ(実現可能性)の検証は表裏一体だということです。
何かを表現したいというアイデアがあり、それをどういうアウトプットに結びつけるか、延々と両者を行き来しながら高めていくことで、体験の完成度が上がっていきます。そこでおこなわれていること全体を「デザイン」と呼んでもいいでしょう。
この繰り返しの大切さを、ピュアなかたちで実感できたことが、一番の資産なんじゃないかと思います。というのも、実際の仕事で関係者がたくさんいると、「何をしたらお客さんを喜ばせられるのだろう」という純粋な部分を突き詰めるのが難しいんですよね。今回のBAPAでは、そこだけを考えて作品づくりができた。そして、最初から最後まで一つの案件に逃げないで向き合うことができた。それがとにかく大きな資産になると思います。
2つ目は、この案件が成功した人もそうでない人も、この先の人生は続くということです。だから、BAPAでのチャレンジが自分の中でどういう糧になり、この先に活きてくるのかを、大きなストーリーとして捉えてもらいたいと思います。そのなかで、自分はこういうことが向いているなとか、こういうことは人に助けてもらったらいいなという、得意・不得意が見えてきたらいいですよね。
僕がずっと仕事をやっていて思うのは、いろいろな人の得意な部分をリスペクトし、チームで一緒に何かをつくり上げるということが大事だということ。それが今回の卒業制作で感じられたとしたら、本当にいい経験になったのではないかと思います」
次は、卒業生代表の挨拶です。
武田誠也(チームB)「この4ヶ月はすごく充実していました。普段は、ものづくりに集中できる環境というのはなかなかないので、ものをつくりたいという気持ちがBAPAに通ってやっと昇華されました。自分でも納得できる作品をかたちにすることができて、すごくうれしかったです。正直、つらいときもあったのですが、いまは楽しかったことしか覚えていません。本当にありがとうございました」
油井俊哉(チームJ)「自分たちのチームが、一期生のなかで一番講師の方々にご迷惑をおかけしたような気がします。でもその分、人に助けを求めれば、助けてもらえるものなのだということも学びました(笑)。僕は今まで、ちゃんとした作品をつくったことがありませんでした。つくりかたもわからないし、プログラムも得意というほどでもなかった。でも、チームメンバー同士の得意なところを活かしていくと、最終的にはちゃんとかたちになるということがわかりました。アイデアも、手を動かしているうちにわいてくるものなんですね。BAPAに参加して、自分はつくることが好きなんだと改めて感じました」
事務局担当のベンチ・小島さんからは、BAPAのネットワークをつくっていきたいという意向についての説明があり、これからのキャリアについても、メンターの方々に相談できるという話がありました。
締めくくりは、校長からの閉会の言葉です。
伊藤 「私は、1期生の作品のクオリティを一番心配していました。でも、当日の作品を見たら、前回見た時よりもぐっといいものに仕上げてきていて、これは本当にうれしかったですね。びっくりしました。
BAPAは、29歳以下という条件で生徒を募集しています。自分が20代の頃どうだったかというと、悶々として、何をつくっていいかわからない時期でした。それに比べると皆さん、もうこんないいものをつくれるわけです。未来は明るいですよ。
表彰されなかったチームも、ユーザー投票などの結果を見れば、それぞれかなりいい評価をされています。だから、自信を失わないでください。みんなの努力によって、会場には2日間で1500人を超える来場者が集まりました。これはすごいことですよ。
みんな、これからもBAPAの経験を武器にがんばっていってほしいと思います。よかったら、就職・転職時の履歴書にも経験の一つとして書いてください。そうやってBAPAの卒業生が活躍していくことが、この業界を盛り上げていくことにもつながります。私達もBAPAを続けて、そういう人材をたくさん育てていきたいと思うので、みんなでがんばりましょう」
朴 「僕は20代の頃、『いつかおれが本気出したらやばい』とか思いながら、新聞の記事をスクラップするような仕事しかしてなかったんですよ(笑)。でもみんな、もうこれだけの作品をつくれて、しかも昨日から今日にかけても、作品のチューンナップでさらにクオリティを上げてきましたよね。テストなんかでもそうだと思うんですが、『テストの前日の追い込みはすごい』みたいな状態ってありますよね。
たぶん、天才というのは、そういうテストの前日みたいなやばいエネルギーを常に出せる人なんです。できる人っていうのは、そういう目標を見つけられた人なのかもしれません。それはもう、デザイン力やプログラミングの能力とかも関係ないんです。
うちの会社も最初はフラッシュから始まって、ガラケーの時代になって、スマホ対応の波が来るなど、どんどん新しい技術に対応していますが、もうオープンフレームワークスやArduinoなんかも、数年ですたれていくと思っています。それよりも大切なのは、何をなしとげたいかをはっきり持っていること。ただ、『インタラクティブ』という大きな流れは、21世紀になってやっと僕らがたどり着いた本流で、この先なくなることは絶対ないと思います。デザインの範囲がそれによって拡張していることは間違いありません。だからこそ、チームでつくり上げることの重要性も高まっている。
BAPAもこれから先、2期、3期とやっていくので、皆さんにもまた講師として戻ってきてもらったりして、いいクリエイティブの関係をつくっていきたいと思っています。最初のチャレンジに加わってくれて、本当にありがとうございました」
ここで、第4回講師のデルトロの坂本政則さんが飛び入り参加で登壇しました。
坂本政則「インタラクティブ系の展示をやる時って、トライ・アンド・エラーの繰り返しですよね。建築などでもそうなのですが、実際の物に合わせてどう対処するかその場で考えなければいけないことも多い。それを乗り越えて、最終的なアウトプットまで持っていく体験を一度したことは、すごく皆さんの糧になっていると思います。その経験は引き出しのなかに貯まり、それをもとにして、次のチャレンジをするときにまた一段上を目指せるようになるんです。僕らもそういうことをなんども経験しています。
また、このBAPAの仕組みって、すごく現場の仕事っぽいんですよ。実際の仕事でチームを組むときも、初めて会う人と一緒にやっていく中でメンバーの得意・不得意がわかってきて、この人とだったらこういうことができるかもという発見ができる。ひとりでは見えなかった部分に、光がブワーッと入ってきて、いつもと違う自分のフィールドが拓けてくる。そういう化学反応が、このBAPAのチームで起こっていたんじゃないかと思います。
僕も、あなた方と同じような業界で仕事をしているので、これから先にきっと『あのときのBAPAの一期生がいいものつくってるな、くそー! おれもがんばる!』という瞬間が訪れると思います。それを、楽しみにしていますね。みなさん、お疲れさまでした!」
最後は、「はい、BAPA!」のかけ声で記念写真を撮影しました。次世代のクリエイターのスタイルをつくる「バパイズム」はここから始まり、さらに次の代へと受け継がれていきます。
(おわり)
構成:崎谷実穂 写真:Aya Watanabe& 崎谷実穂