『ママだって、人間』
田房 永子/河出書房新社 /3月14日発
あらすじ:あの超話題作『母がしんどい』で実母との戦いを描いた著者が、今度は一児の母になって、育児マンガの常識とタブーを破る! 「妊娠したら性欲は二の次」「陣痛は痛い」「育児は大変」「母乳が一番」……すごくよく聞くフレーズだけど、実際に妊婦&ママになってみると違和感だらけ! これって一体どういうこと? 32歳A型の新米ママ・エイコは今日もいちいち立ち止まる!
担当編集者の太鼓判!
大ヒットした前作『母がしんどい』のほんわかタッチとは一転、田房さんはあえて本作にこのハードボイルドな絵柄を選びました。それは、世間には「ママ」とひと括りにされてしまうお母さんの個性を、ちゃんと一人ずつ描き分けたかったから。抜群の画力のみならず、田房さん独自の観察眼と考察力あってこそ、妊娠出産育児の笑いと涙、絶望と希望、そしてなかったことにはできない「違和感」が1コマ1コマに溢れている本作。ママだって人間、なんて当たり前では? と思う人にも読んで欲しい大傑作です!(河出書房新社 松尾亜紀子)
漫画を描くことで、自由な気持ちにはなれたけれど
—— 作品では、主人公のエイコさんが、社会に理想の「お母さん像」を押し付けられていることに気づいていきますね。田房さん自身もこういったことに気付くことで、「お母さん像」から自由になられたのでしょうか?
田房永子(以下、田房) いや、私も、実際には自由になれていないですよ。
—— そうなんですか。
田房 ただ、こういった作品を書いて、共感してくれる方と話をする機会が増えたから、現実世界で「お母さん像」を押しつけられても、あまり気にならなくなりました。
でも、社会的にはなにも変わっていません。やっぱり、社会の考える「お母さん像」にある程度合わせないと、お母さんをやることって、難しいと思うんですよね。
—— 漫画で表現することで気持ちはラクになったけど、現実世界は変わっていない、と。
田房 こういった作品を書くことで、世の中を少しでも変えれたら、という気持ちではいるんです。
「お母さん像」の問題と、「毒母」問題はつながっている
—— 今回取り上げさせていただいている『ママだって、人間』と、他の著作とは、どういった関係なのでしょう?
田房 私が今までに出した『母がしんどい』『ママだって、人間』『呪詛抜きダイエット』は、根本的には、社会に存在する同じ問題について描いているんですけれども。
—— 三作ともつながっている、ということですか?
田房 そうですね。娘へのコントロールが行き過ぎる毒母※1をめぐる、自身の体験をコミックにした処女作『母がしんどい』を書いていたときは、私の家庭の中だけでの問題をテーマにしたつもりだったんです。でも、漫画を世に出したら、同じような家庭で育った人から多くの反響をいただいて、この問題は、個人や一家庭の問題じゃない、と気づきました。
※1 子どもに悪影響をおよぼしてしまう、機能不全家庭の母親のこと。アメリカの精神医学者、スーザン・フォワードが著した『毒になる親』から生まれた俗語「毒親」の派生語。
—— なるほど、社会的な背景がある問題だ、と。
田房 そうです。その後自分が子どもを産んだとき、以前から書いていた「毒母」の問題と、自分が母親になったときの息苦しさがリンクしたんです。「こんな息苦しさを感じていたら、子どもによくない影響がいくわ」って。
—— たしかに、『母がしんどい』では、主人公のエイコさんのお母さんが、「自分はいい母だし、いい母娘関係にある」、と主張しつづけますよね。まさに、社会が提示する「お母さん像」に、エイコさんのお母さんが押しつぶされていた、ということなんですね。
田房 そうなんですよ。「毒母」と呼ばれるお母さんたちは、理想の「お母さん像」を押し付けられる窮屈さから生まれてしまうんです。
『母がしんどい』に共感してくれた人たちに話に聞くと、「毒母」たちに共通していたことは、やっぱり「世間体」をものすごく重視していた、ということでした。
—— こういったお母さんは、具体的にはどういったことを子どもにしてしまうのでしょう?
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