訳された言葉は、遠くの友達に贈るプレゼントのようだった
(編集部が部屋に入ると、東田さんは少し落ち着かない様子で、時に声を出しながら、部屋の中を行ったり来たりしていた。母親の美紀さんによると、東田さんは暑さが苦手なのだそう。また、前回のインタビューから約半年が経っており、久しぶりだからかもしれないとのことだった。
クーラーの温度を低くし、東田さんが落ち着くのを待って、インタビューを始めた。)
——この度は、ニューヨークでの講演会、本当にお疲れさまでした。海外での講演会ということで、緊張されたのではないでしょうか。
東田 そうですね。はじめての海外講演だったので、心配でした。
(ここで、インタビュアーがかばんからパソコンを取り出したところ、東田さんは「わー」と言いながら席を立ち、インタビュアーのパソコンに駆け寄り、キーボードを打とうとした。
母親の美紀さんが急いで東田さんのパソコンを取り出し、前に置くと、東田さんは一心にキーボードで文字を入力し始めた。「インタビュアーのパソコンを目にしたことで、思い付いた言葉を打ち込まないと、気がすまなくなってしまったのでは」と美紀さんが説明してくださった。
少しすると、再びインタビューに答えるため、東田さんは文字盤を指しはじめた。会話の場合は、話すことに集中するために、文字変換などの機能がついていない文字盤のほうを使用するそうだ。)
東田 僕の言葉が届くのか、思いを伝えられるのか、ご参加くださる方々の反応はどうか、見通しがつかないのが心配でした。おわり。
——実際に講演されてみて、いかがでしたか?
東田 いつもと違う風景でしたが、自分らしい講演会ができたと思います。お客様は外国の方ばかりだったのですが、皆さん僕の言葉に耳を傾けてくださいました。
通訳の方が訳してくださる英語を聞きながら、僕の言葉が空の彼方へ飛んでいくみたいな気がしました。言葉を訳して伝えるということは、遠くの友達にプレゼントを贈るようだと感じました。おわり。
パソコンに文字を打っている東田さん。
インタビューの途中で、連想したり気になってしまったりした言葉を、打ち込まずにはいられないのだという。
言葉の意味を理解できないのは、話せない以上に寂しかった。
——さっき、私がパソコンを取り出したときに大声を出したのは、パソコンを触りたくなったからですか?
東田 そうです。パソコンを見てしまうと、自分でも打ちたくなってしまいました。おわり。
——インタビューに答えてくださっている際にも、途中で何度も、キーボードに文字を打ち込んでいらっしゃいますが、何を打たれているのですか。
東田 頭に浮かんだ言葉です。僕は自分の気持ちと関係なく、言葉が頭の中に溢れることがあります。おわり。
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