コンテンツがスーパーの特売の卵に成り下がるとき
—— 川上さんはよく、任天堂を例にしてプラットフォーム自身がコンテンツをつくったほうがいい、という話をされますよね。今回のKADOKAWAとの経営統合は、まさにそれをやろうとしている、ということでしょうか。
川上量生(以下、川上) そうですね。
—— そこで、なぜプラットフォーム自身がコンテンツをつくったほうがいいのか、ということを改めてうかがいたいんです。GoogleやAmazonは自分でつくらないですよね。巨大なプラットフォームだったらつくらなくていいということなのでしょうか。
川上 Kindleが米国でやったことは、ご存知ですよね。目玉商品として、売れ筋のペーパーバックを書店より安く売ったんです。それをされるのがいやで、出版社は卸値段を高くした。そうしたら、Amazonは卸値よりも安く販売した。逆ざやを取ったんです。
これはどういうことかというと、コンテンツビジネスをしていないプラットフォームというのは、とにかくコンテンツの値段を下げようとするんですよ。ユーザーが集まってプラットフォームが拡大すれば、後で帳尻合わせられるから。プラットフォームの拡大時期においては、コンテンツなんかスーパーの特売の卵みたいなもので、客寄せのツールなんです。
—— ええ、まさにそうでした。
川上 docomo や au、Softbankがガラケーの時代にコンテンツ競争したときも、キャリアはコンテンツメーカーにコンテンツの値段を下げさせようと必死だったんですよ。安いパックをつくったり、会員数でメニュー順位を決めることにして、安いサイトをつくって会員数を増やしたほうが得するようなインセンティブ設計にしたり。どうして下げさせようとするかというと、プラットフォーム側はコンテンツの値段を下げても、懐がいたまないからです。
—— なるほど。
川上 電話料金やパケット代を下げるのではなく、コンテンツの値段を下げたほうが、自分の懐をいたませずに値下げ競争ができて、客寄せができる。
—— そうか、ドワンゴは着メロ事業のとき、クリエイター側にいたんですね。
川上 そうですよ。僕らはキャリアの値下げ圧力に対して、ずっと戦っていたんです。コンテンツをつくらない企業がやっているプラットフォームでは、コンテンツは単なるプロモーション材料に堕落する。
でも、任天堂のような自分でコンテンツをつくっているプラットフォームは、コンテンツの値段を下げません。むしろ、ゲーム機本体を安く売って、ソフトの売上で回収しようとする。だから、任天堂のゲームのソフトは値崩れが起きなかったんです。最終的にコピーなどが可能だったPCゲームではなく、ゲーム機ビジネスで任天堂が勝った理由は、コンテンツの値段が下がらなかったからです。
—— コンテンツの値下げ競争にならないから、つくり手たちがいいゲームをつくり続けることができた。
川上 結果的にそうなりましたね。それは、任天堂が自分でコンテンツとプラットフォームの両方を提供していたからです。
—— iTunes や App Store、Google Playといったプラットフォームはどうなんでしょうか。成功しているといえば、しているようにも見えます。