そんなことを考えているうちに、生徒会室のドアが見えてきた。
中から話し声が聞こえる。先輩たちはもう来ているようだ。
ところが、扉に手をかけようとしたところで、勝手に扉があき、珍しく血相を変えたカイト先輩が飛び出してきた。
「わあっ! あ、た、助けてよ二人とも! 会長を止めて!」
レンの背中に隠れたカイト先輩に、室内からメイコ会長が両手の指をわきわきさせて今にも襲いかかろうかと様子をうかがっているのが見えた。
「観念しろ、カイト~。これも生徒会の宣伝のためだ~っ」
「イヤですってば!」
事態が呑み込めないわたしたちに、カイト先輩が早口で言う。
「か、会長がこんどの球技大会で僕に女装をさせるっていうんだ! 球技と女装って意味わかんないですよ!」
「わかんなくていいのよ。女子からのリクエストなんだから」
「主に会長からのでしょう!」
会長は、生徒会の宣伝に命を懸けている。次の代替わりで人数を増やしたいのだそうだ。一度言い出したらきかないであろうことは、わたしたちももうわかっていた。
「あの、カイト先輩……あきらめたほうが……」
「イヤだよ! あっ、そうだ、女装ならレン君がいいんじゃないですか?」
「ええっ! オレ、無理っすよ! 女装ならリンのほうが……」
「わたしは元から女だーっ!」
結局、カイト先輩はそのまま逃げだし、次に目を付けられそうになったレンもそれに続いた。
静かになった生徒会室で、わたしと会長と、ずっと笑っていたルカ先輩が残される。
「ちぇ~、なんだよ。こっちは生徒会長だからってメイクもアクセも我慢してるんだし、ちょっとくらいストレス発散させてくれたっていいじゃん。かわい~くしてやるのに」
「会長、自分のストレス発散って言っちゃってますよ」
ツッコむルカ先輩につられて、わたしも笑った。
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