やっかみが起きるのは成功している証拠
真山 私が『そして、星の輝く夜がくる』を書こうと思ったきっかけの一つに、震災直後からテレビや新聞などメディアが、やたらと子どもを撮り始めたということがありました。みんな元気でニコニコして、すごくたくましい。するとコメンテーターが「子どもは強いですね」と必ず言うんです。これはまずいことになりそうだと思いました。
岩佐 ああ、僕にも同じような経験があります。震災直後に中学生のキャリア教育に取り組んだとき、全員が全員、「自衛隊になりたい」「消防士になりたい」と言ったんです。自衛隊や消防士に助けてもらっているわけですから、感謝したり憧れたりするのは当然かもしれません。しかし、世界は広いわけです。いろんな選択肢がある。震災が子どもを狭い世界に閉じ込めてしまったのかもしれないと思いました。
真山 強い大人が周りに自衛隊や消防士しかいなかったからでしょう。被災地で子どもが元気にふるまったり、大人がのぞむような答えを言うのは、大人に立ち直ってもらいたいというメッセージなんですよね。大人が弱ってしまうと子どもは生きていけないので、本能的にそういう行動をする。
岩佐 小説のなかに出てくる小野寺先生は、児童に「頑張るな」と言っていますね。
真山 結局、神戸はそれができなかったんですよ。震災の翌年から子どもにPTSDの症状が出始めて問題になりました。
そうそう、被災した人間って大きな音がダメなんです。作中でもボランティアが打ち上げた花火でもめるシーンがありましたが、特に子どもは大きな音をとても怖がるものです。でも、ちゃんと怖がっている人は意外と大丈夫で、怖さを我慢してしまうほうが、後になって深刻な事態になることがある。
岩佐 小野寺先生は部外者だからこそ、子どもの「我慢」を見抜けたんですね。
真山 そうです。子どもたちが不満をぶちまけられる新聞を発行し、大人の被災者を鞭打つようなことをしてでも子どもに「我慢するな」と教えられたのは、彼が部外者だったからこそです。そういう意味では、震災直後で歩みを止めてしまった人々に、「歩こう」どころか「世界一に向かって走ろう」と宣言した岩佐さんも近いものがある。農業は非常に規制の厳しい業界ですし、既得権益者も多いので苦労もあったんじゃないですか。
岩佐 実は農業生産法人で儲かっても、株式を譲渡することはできません。農地法がそう定めているんです。農地法というものは、農村を守るための法律であり、農業を育てるためのものではないんですね。だから、若い経営層が農業に参入したり、株で資本の調達をやりにくいというのが大きな問題だと思いました。