領収書からみえる時代の変遷
林伸次(以下、林) 僕がこの店を始めて18年になりますが、バーでお酒を飲む人も減ってきている印象ですね。
フェルディナント・ヤマグチ(以下、フェル) 若い人はあまり来ないですか?
林 20代がまったく来なくなりました。店は僕が27歳の時にはじめたんですけど、当時は同世代のお客さんがたくさん来てくれたんです。その世代の人たちがそのままずっと来てくれている感じなんですが、その人たちも18年分の年齢を重ねていますから、若い頃に比べるとお酒を飲む量も機会も減ってくるわけです。
フェル 20代なんて、お酒飲みまくりの時期でしたけどね。
林 20代同士で来るのは、正直なところ、1ヶ月に1組くらいだと思います。
フェル そんなに!? 男女問わず?
林 20代でよく来るのは、おじさんに連れてこられる女性だけですね。
フェル そのおやじたちは相変わらずお店で女の子を口説いてるんですか?
林 普通に口説いてますよ。
フェル なんてことだ!(笑)
林 もうバーでお酒を飲む文化が若い人にないっていうのと、単純に若者がお金を持っていないというのもあると思います。
フェル たしかになあ。380円居酒屋とか出てきてしまうとね。ちなみに林さんのお店はリーマン・ショックの影響はありましたか?
林 ありましたありました。領収書をもらう人、つまり経費で支払う人が一気に減りました。
フェル じゃあ、領収書を書いているとどこの会社のひとかわかってしまう?
林 そうなんです。バーというのは、その時に一番儲かっている業界の人たちが来る傾向があるんですね。この店をオープンした18年前、1996年当時はCDがよく売れた時代だったのでインディーズレーベルの経営者や、あとはカフェのオーナーがよく来ていました。その後は派遣会社の経営者や、もっと最近になると音楽配信ビジネスをしている人が増えました。
フェル お客さんの傾向から時代が見えるのはおもしろい。
林 最近まではスマートフォンのアプリを作ってる人たちがすごく多かったんですよ。でもいまはだいぶ減ってしまいました。最も顕著なのは出版業界。雑誌関係者は本当にビックリするくらい来なくなりました。
フェル うーん、しかし飲食店はどこも同じような状況かもしれませんね。
林 でも、実は2000年代ってけっこうよかったんですよ。僕のまわりだけかもしれませんが。
フェル ほう。