夢の正体は「長い間かなわない欲求」
川上量生(以下、川上) この2週間、夢とはなにかということについて社員と議論してたんですよ。
—— 夢、ですか。
川上 僕は基本的に「夢をもって生きろ」という言説について、超批判的です(笑)。でもそういうことを言う人は多い。だから一度ちゃんと考えようと思って、夢とは何かを定義してみました。
—— おお、どういう定義ですか?
川上 「容易には実現できず、継続的に実現したいと願っている」こと。これが、人間が「夢を持っている」と主張しているときの「夢」の定義です。
—— うーむ、そうなんですか。
川上 この2つの要件が満たされていれば、その夢が大きいか小さいかは関係ないんです。例えば、お腹いっぱいごはんを食べたいということも、夢になり得ます。例えば、ボクサーが減量中に腹いっぱいごはんを食べたいと思っていたとする。でもかなわない。これは、夢なんですよ。
—— 試合が終わったら食べられると思うんですが、それでも夢なんですか?
川上 それは、「実現までの期間が短かすぎる願望は夢ではない」という主張ですよね。たしかに、試合が終わったら試合直前よりは食べられるかもしれない。でも、一ヶ月間、自分の食べたいものだけお腹いっぱい食べられるかっていったら、たぶんボクサーである限りそれは無理じゃないでしょうか。太っちゃいますから。競馬の騎手とかもそうだと思います。
—— たしかに、食べ過ぎると職を失ってしまいますね。
川上 そうなりますよね。だから、引退するまでずーっと「お腹いっぱい食べたいなあ」と思っている。そういう願いは、夢になる。つまり、夢の正体というのは、それが立派なことかどうかは置いておいて「長い間かなわない欲求」のことなんですよ。
—— なるほど。
川上 継続的な強い欲求を持たない満たされた人が、無理をして夢を持とうとすると、何が起こるのか。かすかな自分の感情の動きを拡大解釈して、無理やり歪めて「これが自分の夢なんだ」と思い込む作業が必要になります。
—— ああ、そういう人、いますよね。
川上 いまの生活に満足していて、満たされていない欲求がない人は、夢を持たないんです。だから、夢を持っているという時点で不幸な人間なんですよ。「僕には夢がある」というと、なんだか偉いように見えますよね。でも、その本質は満たされない欲望をずっと抱えている、ということです。
—— 以前、イベントでお話ししたとき、川上さんは自分が本当にやりたいことを突き詰めて考えたら、「もっと寝たい」という結論に行き着いたとおっしゃってましたよね(笑)。
川上 満たされない本能があったらそれは強烈な夢になりますからね。眠いから寝たいっていうのは本能ですよ。「彼女が欲しい」とかもそうです。これは生殖本能に従っていますから。
—— 「夢」という言葉から想像されるものとは、どんどん離れてきましたね(笑)。
アダルトサイトを運営している若者の夢とは
川上 夢について考えていたら、アダルトサイトを運営している若い人たちに話を聞いた時のことを思い出したんです。僕、そういう仕事をしている人と何人か話したことがあるんですけど、共通で言うセリフがあります。それは、「本当は福祉関係の仕事がしたい」ということ。