SF作品を評する文章に「これは単なるSFではない!現実で起きうることだ!」といった言い回しが登場するけど、パトレイバーに対してこの言い回しは適切ではない。なぜならパトレイバーのできごとは実際に現実でも起きたからだ。
パトレイバーのIT技術
1989年に公開された『機動警察パトレイバー the Movie』(以下、「劇パト1」)はサイバー犯罪映画としても高く評価されている。「劇パト1」で犯人である帆場暎一が生み出したのはコンピュータウイルスだったわけだけど、日本にコンピュータウイルスが初上陸したのは88年で、映画公開のわずか10か月前のことだった。そんな時代にコンピュータウイルスを脚本に組み込むだけでも斬新だけど、「劇パト1」はさらにその先をいっている。
コンピューターを描いた80年代の映画といったら『ターミネーター』や『ウォーゲーム』のように人工知能が反乱するタイプが有名だ。つまりサイバー犯罪ではなくて「コンピューターが自我を持ったら?」という、古典映画『2001年 宇宙の旅』と同じ路線なのだ。
しかしパトレイバーは違う。レイバー=パソコンとして描いたのだ。例えば主人公たちが搭乗するレイバーは98式と呼ばれている。これは当時主流だったパソコンのPC-9800シリーズに由来している。またマンガ版『パトレイバー』のヒロイン泉野明は、レイバーのことをハードウェア、パイロットである自分のことをソフトウェアと呼んでいる。
このレイバー=パソコンというアイデアこそがパトレイバーのリアルさの源だ。パソコンには当然OSが必要なので、レイバーにも専用OSがインストールされる。だからこそOSの開発者である帆場暎一がOSそのものにコンピューターウイルスを仕掛けるというプロットが生まれた。「劇パト1」の設定では、レイバー用の新OSが大ヒットして市場シェアの80%に達したため、そのウイルスが社会的混乱を招くことになる。これはWindowsの大流行とそのセキュリティリスクそのまんまだ。当時は専門用語だったOSやコンピュータウイルスも今や一般用語になったし、「劇パト1」のクライマックスに登場する社員の入室管理システムも当たり前になった。
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