ずんだ餅キャラのマスコットにより、鍵の持ち主はすぐに判明した。翌日の昼休みに、由有が放送部にかけ合い、落し物のアナウンスをお願いしてくれたのだ。
昨日の彼女は、モジモジした様子でわたしの机までやってきた。
「……あの、さっぎの放送聞いたんですけど。鍵、ここにあるっで」
予想はしていたけど、イントネーションが東北弁まじりだ。
「うん。預かってるよ。はい、これ」
「はわ……! ズンモちゃん!」
「ズンモちゃん?」
「あ、この子の名前です。まだ試作の子なんですけど」
試作? もしかしたら“ズンモちゃん”は彼女が作ったキャラクターなのかもしれない。
「本当にありがどうございまず!」
その声にわたしはハッとした。彼女の声にはふしぎな透明感があった。ふんわりと心地良く、でも遠くまで響くような……。昨日の歌声ではわからなかったけど、彼女の声はとてもきれいなソプラノだ。
興味がそそられたわたしは、歌について少し聴いてみたくなった。
「もしかして歌うの好きなの?」
「え……!?」
「昨日、音楽室の前で歌ってたから……。歌が好きなのかなあって思って」
正直、ものすごい音程ではあったけど、敢えてそこは触れずにたずねてみた。
すると彼女はふるふると首を振った。
「歌は好きです。けど……歌うのは嫌いです……」
「——……!」
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