翌日、わたしは無事に音楽授業の指導案を学校側に提出することが出来た。
授業が開始される来週からが本当のスタートなので気は抜けない。でもひとまずは肩の荷が降りた。合唱部の一件に専念するチャンスだ。
わたしは初めに、やはりあの先生に相談をしてみようと思った。
「——海斗先生!」
「あれ? 未来先生?」
思った通り、海斗先生は調理室にいた。室内にはふんわりと甘いバニラビーンズの香りが漂っている。調理台にはやはり海斗先生が大好きなアイスの材料が、わんさかと置かれていた。
「血相変えてどうしたの?」
「合唱部のことで、ちょっと相談したいことがありまして」
「……?」
以前、海斗先生は調理部と合唱部の副顧問をしていた。だが、去年から調理部の専任になったとのことで、今現在の合唱部についてはあまり知らないようだった。
「部員が少なくなってるって話は聞いてたけど……。まさかそこまでいなかったとは……」
「はい。今の部員は二年生だけで、五名しかいないそうです」
しかも一名はユウレイ部員。
「あと部長も決まってないみたいでして」
「そっか……。合唱部は芽依子さんの担当だったから、僕は詳しいことは知らなくて……。あんまり口出すと怒られるし……。ほら芽依子さんって、一度キレるとなかなか機嫌直してくれないだろ?」
そう言いながらも、海斗先生はどことなくニヤニヤしているように見える。
なんだろう? 海斗先生に感じるこの違和感……。
よくわからないので、わたしはひとまず「ですね」とだけ返しておくことにした。
「このまま活動休止の状態が続くと、廃部になるかもしれないんです……」
海斗先生はボウルを置き、うーんと考え込み始めた。
「どうすればいいんでしょう……」
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