ネットで弱者に厳しいのは、受験戦争を勝ち抜いた人
—— 川上さんは、いろんな才能がある人々と仕事をされていると思うんですが、そもそも、才能ってなんだと思いますか?
川上量生(以下、川上) 才能は希少性ですね。
—— おお、シンプルな定義だなあ。ちょっと補足すると、希少かつ、需要にマッチしたものが才能ってことですかね? それとも、まったく世の中の役に立たない突出した能力も才能だと?
川上 まあ、市場性とわけて考えたほうがいいと思いますけど、基本は希少性だと思います。才能のレベルがとても高くても、競争相手がたくさんいるジャンルで認められるのは大変ですよね。例えば、プロ野球選手は、裾野が広いから大変ですよ。
—— たしかにそうです。競争が少ないところだと、楽に希少性が獲得できる。
川上 みんな希少性と能力の高さをリンクさせてイメージしているでしょ。たとえばイチローとか、すごいですよね。でもどこまですごいのかということを冷静に考えると、こういう世界では、天才であればあるほど大してすごくないんですよ。
—— ええー(笑)、どういうことですか?
川上 100メートル走で考えるとわかりやすいと思うんですけど、100メートル走って世界的なレベルの選手になればなるほど、縮まるタイム数っていうのは減っていきますよね。最終的には、コンマ1秒の差で天才かどうかが決まる。人間の能力っていうのは、ある程度まではみんな同じところまで伸ばせるんです。そこから、薄皮一枚分だけ突き抜けた人が、天才と呼ばれる。これが、スポーツ競技などの競争の激しい分野での天才の定義。
—— ああ、なるほど。わかりました。競争が激しい世界だと、1番の天才と2番手の選手との差があまりないという矛盾がおきるんですね。
川上 そう。実はそんなに能力的には差がない。
—— そういう意味では、人生ってポジショニングがすごく大事ですよね。
川上 そうです。競争が激しいところで天才と呼ばれるのはめっちゃ大変ですよ。割にあわない。で、僕が受験競争をあまりよくないと思うのは、競争が激しいゆえに、全員が少しの点差を争う構造になっているところ。どうでもいい差を拡大して見せるのが受験ですよね。
—— たしかに、試験で誰々より何点上だったなんていうことは、受験時以外は何の役にも立たないですよね。
川上 でしょう。なのに、そこで競争を続けてきた結果、試験で点数が良かった人って、変なエリート意識が身についちゃうんですよ。ある程度偏差値の高い大学に行った人って、自分たちを勝者だと思ってるじゃないですか。
—— そうかもしれませんね。
川上 それがいろいろ勘違いを生んでますよね。やっぱりネットの中でも、弱者に厳しい人は成績が良かった人だと思うんです。多様性って言葉があるじゃないですか。多様性は大事だってみんな言いますよね。多様性のない社会っていうのが、一番厳しい世界なんですよ。1つの指標で競争させられるわけですから。僕は、インターネットって社会の多様性をなくすものだと思うんです。
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