大石蘭(以下、大石) 私、能町さんの『雑誌の人格』(文化出版局)が好きで、連載のときから読んでいたんです。視点に偏見がないというか、愛があるところがすごく好きです。
能町みね子(以下、能町) それはありがたいです。
大石 こういう本で揶揄的なものとかディスるものとかいっぱいあると思うんですけど、能町さんのってすごく愛情がある。
能町 毒舌って、嫌で。結果、毒舌って言われることもあるんですけど……。
大石 鋭いから?
能町 鋭いかどうか自分ではよく分からないですけど、褒め言葉として「毒舌」しか知らない人もいますよね。でも毒吐くだけだったら誰にでもできるというか、逆に褒めておもしろく書く方が難しいんじゃないかと思って、なんでも褒めてやろうくらいの感じで書いてました。特に雑誌って、もう衰退してるメディアだから、いま雑誌叩いてどうするんだと思ってて。
大石 なるほど。私も大学院で雑誌研究をやってるので、興味があります。
能町 あんまり好きでない文化圏でも、無理にでも褒めようとすると逆に新しい視点が見えたりするんですよ。
大石 そうですよね。「小悪魔ageha」の素晴らしさを伝えたくて『雑誌の人格』の連載を始めたって、おっしゃってましたよね。
能町 「小悪魔ageha」については、本当に好きです。なんか突き抜けてる。私自身は全然経由してないんですけど、ヤンキー文化って、見てたら好きになっちゃうんですよ。どういうわけか。まあ多少年をとったから気になり始めたのかもしれないですが。異様な純粋さとかローカル感とか、私にないものなので。
大石 何かを論じるときって「分類」が必要になりますよね。そういうときに気をつけてるというか、心がけていらっしゃることってありますか?例えば『雑誌の人格』にしてもある意味分類じゃないですか。 カテゴライズって難しいと思うんです。やられて嫌なカテゴライズとかも……。
能町 ありますよね。
大石 能町さんのはそうなってない。すごい絶妙なさじ加減。
能町 そう言ってもらうとありがたいんですけど、やっぱりカテゴライズされるのはふつうは嬉しくないですよね。
大石 でも居心地いいカテゴライズもあったりするんですよね。
能町 自分で「愛をもって」というとクサいから言いたくないんですけど、出てくる全員、とっても愛しいつもりで書いているんですよ。だからわざわざプロフィールを詳細にして、どこで生まれてどこで育って、ってとこまで考えるんです。そしたら、どんな人でもひとりひとり人生が見えてきて、可愛くなってくるんです。
なんでこんな渋谷の近くでモッサリしてるんだろう
大石 東大にいらっしゃったときも、周りの人をそうやって見てましたか?
能町 大学のときはもうちょっと皮肉な感じでしたね。
大石 あそこにいるとそうなってしまうんですかね?
能町 期待しすぎてたのかもしれないですね。高校はすごい楽しかったんです。県立の、偏差値が高いいわゆる進学校で、入学前は何も期待してなかったんですけど入ってみたら変な人がたくさんいて。だから、大学に入ったら全国からもっと面白い人が集まるかと思っていたら、そうでもなかったっていう(笑)。
大石 いかに授業さぼるかとかそういうことばっかり言ってて。
能町 そうなんです。オリ合宿(※)でほんと幻滅して。私も別に勉強ばかりやりたくて入ったわけじゃないですけど、いきなりオリ合宿の段階でどうやって授業をサボるかってことだけを先輩が教えてくるのにびっくりしましたね。かといって大学外に居場所を求めるわけでもなかったので、さほど大学時代を謳歌してた自覚はないです。
※1年上の先輩が大学のガイド役を務める、オリエンテーションを兼ねた入学直後のクラス合宿のこと。
大石 東大に入っての4年間というのは、自分にとってどうでしたか? 私の場合は、福岡から出てきたので、環境が変わりすぎて一番混乱してた時期だったんです。
能町 モラトリアムな大学生の感じに私は馴染めなかった。
大石 でもなんだかんだでみんな、いいとこに就職するじゃないですか。
能町 そうなんですよ。みんな、道を完全には外さないんですよ。
大石 無難な、安定の道を行きますよね。
能町 大体、見た目からして男はみんな灰色の格好してるし(笑)。なんでこんな渋谷の近くでモッサリしてるんだろう、って思ってましたね。私も決してオシャレではなかったんですけど……。だから、大石さんは目立つでしょうね。いないですもんね、駒場にそういう格好の人。
大石 そうですね……。
能町 女の子は全体の2割くらいですけど、ぶっちゃけた話、女の子もほとんどオシャレじゃないですよね。
大石 オシャレっていっても決まった型のオシャレなんですよね。
能町 そうですね、ガイドブック見てやってるというか。コンサバというか……。一応コンサバなのかな。入ったときはみんな本当にださいんですよ。言っちゃ悪いけど。1年くらいたつと少しは洗練された子も出てくるんですけど、それでもだいたいモノトーンから逃げられない。
大石 洗練されたとしても同じパターンって感じの人も多いかもしれませんね……。
能町 そう、銀行員的な感じの。
大石 あと女子アナ的な。
能町 そう、女子アナ的な! 個性的な格好してる子って、ほぼ記憶にないですね。男の子の方がいたかな。
大石 そう、男の子の方がいますよね。
能町 だからそういう子は、たまたま見かけたりすると勝手に注目していましたね。
大石 たまにそういう人いますよね。
能町 私のとき、弁髪の人がいて。
大石 たまにいるんですよね。そういうエリアも時代も全部越えてるような人。
能町 しかもかっこいいんですよ、顔が。ちゃんとオシャレで、弁髪。いつも図書館とかで見るんですよ。真面目に勉強とかしてて。
大石 そういう人って自分のやりたいことをすごく持ってて。だからすごく真面目だったりするんですよね。
能町 そういう人、すごい惹かれますよね。
大石 東大じゃなかったらそれは惹かれないんでしょうか? 違うんですかね。
能町 うーん、まあ東大だからっていうのはあるでしょうね。見た目が強烈なだけじゃなくて、勉強とかをちゃんとやってるギャップがいいんでしょうね。
『ときめかない日記』に共感した学部時代
大石 能町さんは学生時代から漫画を描いたりとか、意欲的に活動されていたんですか?
能町 大学時代は特に何も……。そもそも私、本を書く仕事をしようと思ってなかったし。個人的には大学のホームページのパロディを作ったりはしてましたけどね(笑)。それもネットには上げてはいたけど、別にどこかに発表するわけでもなく。だから、大石さんは学生時代からこうやって仕事をしていてすごいなと。早いですよね。23歳ですか?
大石 今年24歳になります。
能町 その時点でこんなに描けるのはすごいですよ。普通のこと言っちゃいますけど……絵、上手いですよね。
大石 そんな(笑)。嬉しいです。
能町 特に身体の描き方とか、描線がきれいですよ。
大石 そうですか? 私、もともとは身体を描くの、苦手だったんですよ。
能町 手とか足とかの描き方が上手いな、羨ましいなと思って。
大石 修行中なので、そう言っていただけて嬉しいです。ありがとうございます。
能町 でも、多分、やりたいことがしっかり決まっているわけじゃないんじゃないですかね?
大石 そうですよね。
能町 私もそんなにやりたいことないんですよ。だから人に言われたことをやるんですけど、逆にそうしておもしろいものができることもあるんですよね。人に調理されるというか(笑)。だから、これからも提案されたことを試しに受けていくのがいいのかなって私は思うんですけど。
大石 はい、そんな感じですね。今回描いた『妄想娘、東大をめざす』自体もそういうところがあって。コミックエッセイっていう形で本を出すことは考えてなかったんです。それまでマンガなんて描いたことなかったので。
能町 私はいっそ、ストーリー漫画を描いてほしいって思ったんです。
大石 えー、フィクションはあんまり考えてなかったです。
能町 面白いだろうなって思って。
大石 ありがとうございます。能町さんのご要望はありますか(笑)。こういう系を描いてほしい、みたいな。
能町 えー、なんだろう。そうだなあ、絶対主人公は女の子ですよね。何をしたらいいのかな?……大石さんが東京に出てからの話を、フィクションでやってもいいですよね。上京してから好きなお洋服の世界に入っていくとか……?
大石 ありがとうございます。私、能町さんの『ときめかない日記』(幻冬舎)も、拝読してました。すごい、なんていうのかな、共感するところいっぱいありました。月並みな言い方になっちゃうんですけど。
能町 大丈夫ですか、あれに共感しちゃって(笑)。
大石 なんか、みんながどんどん大人になってくみたいな、なんで私の知らないところで大人になってくの、みたいな感じを、大学生のときにすごく感じてて。まさに東大でクラスの中が『ときめかない日記』の会社の中、みたいな感じだったことがちょっとあったので。
能町 これは、すごく暗い話になってもいいや、と思いながらわりと好きなことを描いてたんですよね。
大石 「古賀さん」とのシーンが、結構、いいな、ってなりますよね。あったかくなりますよね。
能町さんがサインに描きそえた『ときめかない日記』の「古賀さん」
能町 私も古賀さんを描いてるときがいちばん楽しかったです。『妄想娘』も、予備校のスナオ先生がキャラ立ってていいですよね。予備校の先生って個性的なイメージありますけど、それを実際に描いた作品ってあんまり見たことないな。
大石 この中に描いたことは、わりと事実なんですよ。
能町 ですよね。私調べましたもん、スナオ先生。ふつうに金髪のすごい人が出てきました(笑)。
大石 そうですか!(笑)
(次回につづく)
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