時間があるほど、迷ったり、悩んだりする
僕が「自由になったかなぁ」と感じ始めたのは、 27歳でフリーのデザイナーになったときです。
一見独立したように聞こえますが、ただ、会社がつぶれただけです。
フリーランスになったあとは出版社などから仕事を回してもらったりして、なんとか食費やら家賃やらの経済面ではある程度安心できるレベルでした。
フリーランスって、あくまで仕事を請け負う側ですから、「ああしろこうしろ」みたいな注文って、よく言われているイメージですよね。
ただ、僕の仕事に限ってはそんなことはあまりありませんでした。
そもそも、その受注の多くは「突貫工事」です。
〆切が受注から3日とか1週間後とかはざらな世界。〆切が1ヶ月後という長期的なスケジューリングは圧倒的に少ない。
考えている暇がないので、相手もある程度デザインは任せてくれていました。
だから、小説を書いていて難しいと感じたのは、長期計画を立てなければいけない部分です。
本1冊は1日では書き終わりません。ゼロから始めたら1冊に3ヶ月、半年、というのは普通です。そのあいだの生活のことや、スケジュールも考えなくてはいけません。
僕は計画性がないので、書いているあいだに貯金が尽きて家を失い、ホームレス状態だった時期もありました(けっこう楽しかったですが)。
この「長期」というのが、自由を考えるうえで厄介なものです。
短期的な仕事とは異なり、長期的なものは、思考や感情が拘束される期間が長くなります。
短期的なものだと、すぐに取り掛からなくてはいけない。
自由かどうかを考えることもなく、です。
もう、体を動かすしかない。
だから、短期的な仕事だと、身体の自由が利かなくなるのは当然です。
けれども、そうした忙しさでごちゃごちゃしているときほど、人は無心で動いているものなのです。
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