【書籍化のお知らせ】
本連載は「20歳のときに知っておきたかった「雄っぱい」のこと」とあわせて大幅加筆・修正を加え、『オトコのカラダはキモチいい』として書籍化されています。新宿二丁目でナンパしたヤリチンのゲイ男性を交えて熱く語り下ろした新たな「第三章」を収録し、雲田はるこさんの美麗イラストで彩った完全版をどうぞご覧ください!
※本連載には、刺激的な内容・画像などがふくまれています。職場や公共の空間での閲覧にはご注意ください。
「穴不在」の暗黒時代とは?
金田 腐女子それぞれのやおい穴の定義って、岡田さんの言うように、その人がBLに何を求めているかという深い部分にかかっているのかもしれませんね。でも、その逆に、その人が読んできた作品の中で、どのように穴が描写されてきたかに単に影響されている、ということもきっとありますよね。だから、やおい穴の描写の歴史もスルーできないと思うわけですよ。
岡田 おっしゃる通りです。というわけで、ここからは、金田さんにやおい穴の歴史をご説明していただきたいと思います。
金田 はい。まず、70年代は、「穴不在」時代!
岡田 穴不在……。これは、「前石器時代」みたいなことでいいんですかね。
金田 そうですね。穴があると思っていた人ももちろんいるでしょうけど、表現だけ見ると、穴の存在が全く描かれていなかった時代です。初期の、それこそ「耽美」とか「やおい」と呼ばれていたころのBLマンガでは、セックスシーンは、股間と股間をこすりつけているだけに見える描写ばかりです。何かが何かに入っている気がしない。チンチンすらも書かれていない。
小説でも、「JUNE」でバイブルといわれた森茉莉の『恋人たちの森』(新潮文庫、1975年)などが有名ですが、直接話法はありません。「ギランの愛撫の下で、稚いミケランジェロの『奴隷』は、のたうち、かすかに呻き、荒い翼の音の下で小鳥の翼は折れ」(同書収録「枯葉の寝床」一五八頁)とか。
二村 なるほど。読んでいる側はなにが行われているのか、全然わからないんですね。
金田 そうなんです。70年代の女性たちが、当時の言葉で「ヒワイ画」と言って、男同士のいやらしい絵を思い思いに描いているサークルの会誌を見たことがあるのですが、そのとき見た中で一番多かったのは、美少年が男にフェラチオをされている構図です。サンプルにもよるとは思いますが、アナルセックスを思わせる絵はゼロでした。
実は私も中学生ごろまでは、男の体にも肛門があることくらいは知っているけど、そこには何も挿れないものだと思ってました。だってウンコが出てくるところだもん。だから、『風と木の詩』とかで少年や男がやっているのは全部フェラチオと手コキだろうと考えていました。だけど、次の時代がくるわけです。「穴の発見」の時代! 穴は発見されたものなんだと断言したい!
(会場どよめく)
二村 「穴の発見」……名言ですね(笑)。
美少年はウンコなんてしません!!
金田 “穴”の発見はおそらく80年代初め。最初に“穴”に挿れる描写をはっきりはじめた人が誰かまでは、さすがにわからないんですけど、それを広めた神たる存在がいたわけです。JUNE(※1)神・栗本薫が。