【サイレン〈No.01〉】中央電波塔・最上階
ドキドキしていた。思わず、寝そべっていた架空長椅子から、体を跳ね起こしてしまったほど。息が詰まっている、かも。息がうまくつけない。
〈呼吸を忘れています。停止中。停止中。再起動してください〉
サポート・システムが警告メッセージ、でもそんなのわかっている。私は、この感覚がそれほど嫌いじゃない気がするし、むしろドキドキで楽しい。危険も、たいしたことない。
私は、翠川初音がそうしているように、両手を胸の前に縮こまらせていた。感情勾配の異常な歪曲に、戸惑っている。とまどう? そういうことが、サイレン=オンディーヌ・システムに発生するなんて、誰も教えてくれなかった。
ということはつまり、私はなにか未知の概念を学習中、ということなのだろう。学習/高度化/複雑化は、サイレン女王である私にとって、好ましい要素なんです。そのことに一切の疑問はないはず。
だから、ある程度の危険が伴っているとしても、継続したほうがいいのでは? と思う。
なにより、アバター=翠川初音であることの愉しみは、今では、他のなににも替え難い気がしていた。この不思議でステキな感情勾配!
非線形で、格子振動にも似ていて、胸の奥がどきどき、熱を感じる、と言ってもいいのかも。危険・危険・危険と警告が連続して来るのに、同時に心地良くて、とても楽しい。不思議すぎるんです。
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