本を書いたお金でやったことは……
—— 歳を重ねるのが嫌だと思った時期はありますか?
ジェーン・スー(以下、スー) 30になったときじゃないですかね。わー、もう30代だ! って。とは言うものの、20代女性ならではの恩恵を受けていたかというと、なんにも受けてこなかったんですけど。
—— 若いだけでチヤホヤされるっていう。
スー 20代のときに若さとか美貌を利用して、分不相応なものを手に入れてきた人たちは、この歳になってキツいと思います。ざまーみろ!って感じですけど(笑)。そこでいい思いをしてこなかった私たちのルサンチマンは、40くらいで解消されてくるんです。もう最高ですよ。
—— 40歳になって変わったことはありますか?
スー 肉体っていう容れ物にガタが来始めているのを、リアルに感じるようになりました。それこそ昨日、歯医者に行ってびっくりしたんですよ。20歳くらいのときに治療した歯がグラグラしてきたので、CTを撮ってもらったら、中で折れていて、治療すると40万円かかるって言われて。
—— うわ、大変ですね。
スー 今まではエンターテイメントにお金を使っていたのに、これからは楽しくもない地味なメンテナンスにお金が飛んでいくようになるんだと思って、なるほど、40代ってこういうことか! と納得しました。本を書いたお金で、歯を治しましたっていうのもねえ(笑)。
—— それはちょっとさびしいですね(笑)。精神的な変化などは……
スー 楽になるかどうかは、その人次第なんじゃないかな。ただ、年々つらくなるようなことはまったくないです。そう言っても、20代、30代の人は信じられないと思うんですけど。正直私も、上の世代の人たちがそういうことを女性誌とかで軽やかに語っているのを読むたびに、「とはいえ、嘘でしょ!」みたいに思っていたんですけど、全然嘘じゃなかった(笑)。
—— 20代、30代のときに抱いていた40代像と、今は違いますか?
スー 大幅に離れていますね。こんなに子どもっぽいとは思いませんでした。 結婚して子どもがいて、ローンは残っているけれども持ち家があるのが、40代前半だと思っていたんです。だけど40歳になった私は、そのどれも持っていないっていうね。失敗だとは思わないですけど、ただただびっくりです。20代のころには、40代になったら当然手にしていると思っていた旦那も子供も持ち家もないのに、いま普通に楽しく生きていられるから、それにもびっくり。
才能は、続けていることのなかにある
—— 今、やりたいと思っていることはありますか?
スー 現在ありがたいことに、表現の仕事として、文章と音楽と、ラジオでしゃべる3つをやらせてもらっているのですが、新しく、音楽回りで映像の仕事をやりたいなとは思っています。来た仕事をあまり断らずにやってきたから、セルフブランディング大失敗みたいな感じなんですけど(笑)。
—— そうなんですか? 文章がお上手だったり、言葉の選び方がキャッチーだったりするのは、作詞とかをされているからなのかな、など、きちんとさまざまなキャリアがつながっていらっしゃるように思ったりもするのですが。
スー いや、私が書いた歌詞の効果でヒットした曲は、ひとつもないですよ。歌詞を書くことになったこと自体なりゆきですし、人間は何があるかわからないもんですよ。
—— でも文章を書くのはお好きだったんですよね。
スー そうですけど、mixi日記を書いてましたとか、そういうレベルですよ。ああ、でも、お金があるときもないときも、頼まれても頼まれてなくても続けていることっていうのは、やっぱり好きなことであり、その人の才能だと思うんです。
今は表現したものを外へ出すのが楽な時代ですし、インターネットはチラシの裏程度の場所、みたいなことをよく言われますけど、チラシの裏でも上等で、誰がそれをおもしろがるかわからないので、どんどん出したほうがいいと思います。読者の方にもぜひそれは伝えたい。「読者の方にメッセージを」とはまったく言われていないですけど、勝手に発信してしまった(笑)。
—— いえいえ、ありがとうございます!
スー 別に前に出たいわけじゃないって言う人もいますけど、とはいえ褒められたらうれしいだろうし、完全に埋没して、誰からも見つからないでいたいって心底思っている人は、そうそういない気がするので。やりたいことに悩んでいる人は、ぜひ自分の続けていることについて考えてほしいですね。
執筆:兵藤育子、撮影:片村文人
さらなるインタビューが、dmenuの『IMAZINE』でつづいています。
「"未婚のプロ" を名乗れるのは先輩たちのおかげ」ジェーン・スー
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