トラウマを作っているのは現在の自分?
安藤美冬(以下、安藤) 昨年末にニューヨークに行く用事がありまして、飛行機の中で『嫌われる勇気』を読みました。一口で言うと「開眼」したというか。「ただごとではないことが起こっているぞ」という直感に導かれるまま、ホテルにチェックインした後にもう一度再読し、結局1日に2回も読んでしまいました。
岸見一郎(以下、岸見) なんと、ありがとうございます。
安藤 2回目の読書を終えた直後のことです。本を閉じ、余韻を感じながらゆっくりと顔を上げると、目の前にニューヨークのホテルから見える朝焼けが広がっていました。それがもう、ものすごく綺麗で。自分の心にも光が広がっていくような、シンクロする感覚がありました。それほど影響を受けた特別な一冊だったので、先生とお話しするのを楽しみにしていました。
岸見 私も『僕たちはこうして仕事を面白くする』(NHK出版)で安藤さんを知って興味を持ち、他の著書を読み進めていたところだったので、今日をとても楽しみにしていました。安藤さんの発言はすごく面白いですね。
安藤 本当ですか! ありがとうございます。
岸見 安藤さんは、『嫌われる勇気』のどこを気に入ってくださったのでしょうか。
安藤 今はまったく違う分野を行き来していますが、本当のところ、私が子どもの頃からいちばん興味のある分野は、「心の探究」なんです。物心ついた頃から「人はどうすれば苦しみから逃れ、幸せを感じられるのか」という大きなテーマを考えずにはいられませんでした。小学校時代にいじめられたり、高校時代に親友が心の病気を発症したり、26歳で「抑うつ」と診断されて休職をしたりしたことが理由だと思います。「心」というつかみどころのないもの、それを理解しようと、たくさんの心関係の本を読んだり、何十カ国を旅したりしてきました。
岸見 具体的に行動を起こされるところが、安藤さんらしいですね。
安藤 そうしたなかで私がぶち当たった最大の疑問は、「トラウマはどうしたら克服できるのか」ということでした。なぜかというと、心のトラウマというものは厄介な代物で、探求すればするほど収拾がつかなくなるからです。トラウマを解決しようにも、次から次へと泉のようにわき出してきてキリがない。ひとつ癒せばまた別のトラウマが姿を現し、それをまた癒し……。それに対して、『嫌われる勇気』は明確にトラウマの存在を否定しています。その言い切りっぷりに、すごくスッキリしたんです。
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