『コラプティオ』が今月、文庫化(文春文庫)されました。私にとって忘れられない作品です。
日本の未来を考えるためには、政治に無関心であってはいけない。そのために、政治に興味を持ってもらいたいと思って書き始めました。
リーマンショック(2008年)発生以降、私たちの暮らしは、単なる経済システムだけでは変わらない崖っぷちまで追い詰められている。今こそ政治の出番だ、というのが執筆のきっかけでした。
そのため物語では、政府主導で新たなる国家的産業を興し世界に打って出ようと、原発プラント輸出を強力に推し進める政府を設定しました。構想に取りかかったのは2009年の秋、文芸誌「別冊文藝春秋」誌上で連載がスタートしたのは、2010年2月でした。
そして、連載最終回の入稿の直前、東日本大震災が発生したのです。
現実世界で未曾有の原発事故が起きたにもかかわらず、『コラプティオ』では、原発プラント輸出を国家戦略に据えている。そんなことが許されるのか——。自問自答の末、それでも世界の原発依存は停まらない可能性が高いと考えて、問題提起の意味も込めて大幅な加筆修正を加えて刊行しました。
この作品を発表すれば、もしかしたら作家生命が終わるかも知れない。大袈裟ではなく、真剣に悩みました。結果的には、厳しいご批判もありましたが、それ以上にたくさんの励ましを戴きました。
政治は決して難しいものではなく、実はとてもシンプルに言い表せます。
すなわち、人間同士が折り合うために必要な仕組みである——。
集団生活をしていく上で、秩序や安全を守るために最低限私たちは、自らの欲望や都合を抑えて、他者と折り合う必要があります。そうした調整機能として政治は、必然的に生まれてきたのです。
だから、私たちは政治とは無縁ではいられません。
国家規模になると、何だかとても複雑で、素人の手に負えなように見えますが、原点は変わりません。参加する人が多くなれば調整が難しいだけなのです。
国家が成長期には、国民間の調整にはさほどの労力は必要としません。皆が一生懸命働き、一丸となって豊かさを求めたいと願っていますから。ただ1点、独裁者が富を独り占めにさえしなければいいのです。ところが、物質的な豊かさがゆきわたると、人々の間に様々な葛藤が生じます。価値観も多様化し、格差も広がります。
その結果、社会に複雑な調整機能が必要になります。一方で国民は、自身の生活や様々な問題解決に忙しく、政治に無関心になります。
余りにも豊かであるが故に、日本では誰が政権を握ろうと、私たちの実生活にはさして影響を及ぼさなかったことが、国民の政治への無関心に拍車をかけました。
しかし、東日本大震災を経験し、さらに三年間の民主党政権に憤りを覚えた結果、やはりもっと自分たちは政治に関わり、行動すべきだという気運が高まってきました。単行本として発表したのはちょうど、そんな〝政治の季節〟が訪れた頃でした。
あれから2年半——既に民主党政権は瓦解し、「ニッポンを取り戻す」というスローガンで、圧倒的な議席を獲得した自民党と公明党による安倍政権が圧倒的な政治力を振りかざそうとしています。そんな時に本書が文庫化される巡り合わせの妙に驚きながら、単行本化とは異なる〝政治の季節〟を紐解く一助になるのではと密かに期待しています。
政治は面白くスリリングで、危険——。それをエンターテインメントの世界で実感してもらえれば幸いです。
次週、『コラプティオ』序章の内容も更新予定。どうぞご一緒にお楽しみください。
読者プレゼントのお知らせ
文庫『コラプティオ』発売を記念して、cakes読者の方10名様に、文庫『コラプティオ』(サイン入り)をプレゼントいたします。ご自身のブログや本のレビューサイトで、読後に感想をアップすることが可能な方が対象です。
ご希望の方は、件名を「コラプティオ読者プレゼント」としたうえで、
1)お名前
2)ご住所
3)お電話番号
4)感想をアップする予定のブログかレビューサイトのURL
を明記したメールを、support@cakes.muまでお送りください。
締切は、1月24日(金)です。当選のご連絡は賞品の発送(1月中を予定)をもって代えさせていただきます。どうぞふるってご応募ください!
(プレゼント企画は終了いたしました。たくさんのご応募ありがとうございました)
![]() |
コラプティオ (文春文庫) 真山 仁 文藝春秋 |